
ラフマニノフ:交響曲第2番
:交響詩:岩
指揮:シャルル・デュトワ
管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団
CD:独DECCA 440 604‐2
ラフマニノフの交響曲第2番は、民族色を色濃く現したロシアっぽい曲であり、これまで録音されてきた第2交響曲は、ほとんどがこのことを意識して演奏されている。また、これからもそうであろう。ところが、デュトワ指揮のCDを聴くと、これまでの第2交響曲のイメージとは大分違うことが分る。あまり、民族色を打ち出すことはせず、オーケストラの響きの美しさの表出に最大限のエネルギーが注がれ、この結果、従来のラフマニノフの交響曲第2番のイメージとは異なり、より普遍的な交響曲としての存在感が大きく前面に打ち出される結果となった。私にとっては、何か新しいシンフォニーが出現したようにさえ感じられるのである。
これは、“色彩の魔術師”の異名を持つデュトワと絢爛豪華な音づくりで知られるフィラデルフィア管弦楽団だからこそ成し遂げられることなのだろう。もし、凡庸な指揮者と凡庸なオーケストラが同じ試みをしたら、ただ、気の抜けた間延びした交響曲になってしまうのかもしれない。中でも第2楽章は、デュトワ+フィラデルフィアのコンビの成果が遺憾なく発揮されている。何か印象派の絵画を見ているような、全体が薄い色を帯びた靄の中に彷徨いこんだような不思議な印象を受けてしまう。
そして、それはそれは美しいアダージョの第3楽章に入るわけであるが、ここでもデュトワ+フィラデルフィアのコンビは力まず、美意識だけを頼りに、微妙なニュアンスを醸し出すことに、ものの見事成功している。第4楽章は、正にフィラデルフィアサウンド全開というところだが、ただ闇雲な派手さではなく、あくまで常に美しい響きが交差しており、この辺はデュトワの手綱捌きの見事さなのであろう。そして、フィラデルフィアサウンドでは、特に管楽器の美しさに惚れ惚れしてしまうのである。
シャルル・デュトワは1936年生まれのスイス出身の指揮者だ。1977年にモントリオール交響楽団の音楽監督に就任し、短期間で同楽団をカナダ随一のオーケストラに育て上げる。08年からフィラデルフィア管弦楽団の首席指揮者を務めている。1970年には初来日を果たし、1996年、NHK交響楽団の常任指揮者となり、1998年には音楽監督、そして03年名誉音楽監督に就任している。つまり、日本とはきっても切れない、とても日本びいきの世界的指揮者なのだ。それはこのCDからも窺うことができるのだが、デュトワの美意識は、何か東洋的なもの、日本的なものが内在しているように思えてならない。そのことが、日本との結びつきを強くしているのかもしれない。(蔵 志津久)