★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ジェラール・スゼーのフォーレ:歌曲集

2010-12-23 13:37:45 | 歌曲(男声)

フォーレ:優しい歌Op.61
      ある一日の詩Op.21
      3つの歌Op.23
      5つの歌曲集「ヴェネツィア」Op.58
      幻影Op.113
      幻想の水平線Op.118
      閉じられた庭Op.106
      イヴの唄Op.95

バリトン:ジェラール・スゼー

ピアノ:ダルトン・ボールドウィン

CD:日本フォノグラム(西独PHILIPS) 420 775‐2

 フランスの名バリトン歌手ジェラール・スゼー(1918年―2004年)は、私の最も好きなバリトン歌手であった。何故好きかというと、その声の質そのものが何ともいえず心地よく耳に入ってくるからだ。“ビロードのような声”という表現があるが、これは正にスゼーのためにある言葉ではないかと私は今でも思う。スゼーの録音したシューマンの「詩人の恋」は、青春の1ページを飾る、私にとっては絶対に忘れることができないLPレコード(その後CD化された)であった。ところで、フランス人がドイツの作曲家の曲を演奏すると、ドイツ人とはまた違う、その曲の本質をずばりと言い当てるような秀演になることが少なくない。例えば、サンソン・フランソワ(1924年―1970年)がベートーヴェンのピアノソナタを演奏した録音があるが、ドイツ人のピアニストとは一味違った手法でベートーヴェンの一面を鋭く描き切っている。イヴ・ナット(1890年―1956年)もそうだ。指揮者では、アンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)がベートーヴェンの交響曲全集を録音し、その出来栄えに当時大いに話題を集めたものである。

 今回のCDは、フランス人のバリトン歌手のジェラール・スゼーが、フランス人の作曲家であるフォーレの作曲した歌曲を歌ったLPレコードのマスターテープを基に制作された。しかし、LPレコードのマスターテープからといっても、決して聴きづらくはなく、現役の録音と言われても分らないほどにいい仕上がりとなっている。これはフィリップスの“ノーノイズ・システム”により実現されたとある。「優しい歌」「ある一日の詩」「3つの歌」は、1960年6月16日―25日のモノラル録音、それ以外は、1964年7月2日―7日のステレオ録音でスイスで収録されたことが記されてる。私が一番好きであったバリトン歌手のジェラール・スゼーが歌ったドイツ・リートは、これまで愛聴してきたが、肝心なスゼーが得意とするフランス歌曲は、私はこれまであまり聴いてこなかった。それは、私自身フランスの歌曲に対しては一歩腰が引けた状態になっているからだ。そこで、以前買っておいて、これまであまり聴いてこなかったこのCDを引っ張り出してきて、フランス歌曲に今回再挑戦してみたわけである。

 結論から言うと、一般にフォーレの歌曲の傑作といわれる「優しい歌」や「幻想の水平線」は、今回聴いても私はそう共感を覚えることはできなかった(挑戦に失敗か!)。ところが、それ以外の曲において大きな発見があった。まず、「3つの歌」Op.23から第1曲の「ゆりかご」。なんと豊かに広がった曲想であり、ゆったりと“ゆりかご”が動くさまが目の前に自然に広がっていくようだ。家里和夫氏のライナーノートによると「恐らくフォーレの歌曲の中で最もポピュラーな存在の一つであろう」とある。第3曲の「秘密」も「ゆりかご」を上回るような、何とも言えずいい雰囲気を漂わしており、思わず“秘密”めいた感情に引き付けられてしまう。次に、「5つの歌曲集“ヴェネツィア”」Op.58を挙げたい。第1曲の「マンドリン」は軽快でしかも優雅で聴きやすい。第2曲の「ひそやかに」は、このCDで私が一番好きになった曲。題名通りひそやかな感じが充分に伝わる。第3曲「グリーン」、第4曲「クリメーヌに」、第5曲「恍惚」と続くが、いずれも情緒たっぷりなところがよく、全体にちょっとシューベルトのリートを聴いているようにも感じる。

 もう一つ、「幻影」Op.113も大いに楽しめた。第1曲「水の上の白鳥」の静かな佇まいを聴くと白鳥の姿が眼前に浮かんでくるようだ。第2曲「水に映るかげ」の仄かににおい立つような曲調はフォーレにしか表現できないかのよう。第3曲「夜の庭」は、豊かな感性を感じさせる名曲。家里和夫氏も「『夜の庭』での静けさの感動は、他の何物にも例えようがない」と書いている。第4曲「踊り子」は、踊りのさまが優雅に表現されている。以上今回のCDでの収穫は、以上の曲を知りえたということとなった。我々の多くは、ドイツ・リートなら昔から聴かされ、身近な存在ではあるが、フランス歌曲というともう一つ間をあけてしまうことが少なくない。しかし、今回スゼーの歌うフォーレの歌曲を聴いて、食わず嫌いの傾向もあるように感じた。もし、あなたが「どうもフランス歌曲は苦手だ」という人であったなら、今回私が挙げたフォーレの歌曲を聴いてみてください。きっとフランスの歌曲も好きになりますよ。 (蔵 志津久)    


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