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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ジャン・ユボーの「フォーレ:ピアノ作品全集」

2016-06-07 17:04:36 | 器楽曲(ピアノ)

 

フォーレ: ピアノ作品全集

<DISC1>

夜想曲(全13曲) 第1番~第9番

<DISC2>

夜想曲(全13曲) 第10番~第13番
主題と変奏 嬰ハ短調 作品73
即興曲(全5曲)
3つの無言歌 作品17

<DISC3>

舟歌(全13曲)

<DISC4>

小品集 作品84(第8番は「夜想曲 第8番」としてDisc1トラック8に収録)
前奏曲集 作品103
ヴァルス・カプリス(全4曲)
マズルカ 変ロ長調 作品32

ピアノ:ジャン・ユボー

録音:1988年10月~1989年4月、パリ、サル・アディアール

企画:タワーレコード

CD:ワーナーミュージック・ジャパン WQCC-405~8

 名ピアニストであったジャン・ユボー(1917年―1992年)による、このCD4枚組の「フォーレ ピアノ作品全集」は、ピアノ組曲「ドリー」やバラードなどを除けば、文字通りフォーレのピアノ曲を網羅してある。このため、フォーレのピアノ曲を俯瞰したい場合には大変便利だし、何よりも流麗なジャン・ユボーのピアノ演奏が、これらの作品の特徴を際立たせており、心底からフォーレのピアノ曲を堪能できるアルバムとなっている。フォーレ(1845年―1924年)の作品は、初期(1860年~1885年)・中期(1885年~1906年)・晩年(1906年~1924年)の3期に分けられることが多いが、ピアノ曲はその全期にわたって作曲されている。それだけフォーレにとって、ピアノ作品への思い入れがことのほか強かったことの証かもしれない。そして、夜想曲、即興曲、舟歌など、ショパンの作品と軌を一にしていることが特徴となっている。しかし、一貫してフォーレらしい優雅で、穏やかな曲調となっており、ショパンのような激情を見せることは決してない。フォーレの生きていた時代は、ワーグナーやストラビンスキー、シェーンベルクなどの革新的作品が世に送り出されていたが、フォーレは独自のスタイルを変えることはなかった。
 
 「夜想曲」の作曲時期は、フォーレの活動時期のすべてにわたっており、最後の第13番は、ピアノ作品の最後を飾るもの。ショパンの夜想曲のような甘美さはそれほどないものの、深い、透明感に満ちた世界を描き切っており、夜想曲としては、ショパンの作品に比肩されるべき、高みに達したと言っていいいだろう。「主題と変奏」は、主題と11の変奏からなる作品で、フォーレのピアノ作品の中でも一際高い評価がなされている。名ピアニストであったコルトーは「この作品の音楽的な豊かさ、表現の深さ、器楽的内容の質の高さは、あらゆる時代のピアノ音楽のうち、最も希有で最も高貴な記念碑のひとつであることは、まったく疑う余地がない」と絶賛している。「即興曲」は、5曲あるが、このほか、ハープのために作曲された1曲の即興曲のピアノ版があり、「即興曲」第6番と呼ばれている。「無言歌」は、3曲があるが、作曲されたのは、1863年、フォーレが18歳の頃の作品で、メンデルスゾーンの「無言歌」に倣った作品と言われている。

 「舟歌」は、夜想曲と同様全部で13曲が書かれた。また夜想曲と同様に、創作活動の全期間にわたって作曲されている。舟歌は、元来ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎが船を進めるときに歌う歌のことを言う。多くの作曲家が舟歌を残しているが、13曲もの舟歌を書いたのはフォーレだけ。それだけ、イタリアに明るい風景にフォーレは憧れたということであろう。「小品集」は、異なる時期につくられた8曲の小品を集め、出版されたもの。「前奏曲集」は、ドビュッシーが前奏曲集第1巻を作曲した時期と重なっている。全部で9曲作曲され、様式も多様であるが、9曲が一つのまとまった作品を意図されつくられたことは確かのようだ。「ヴァルス・カプリス」は、4曲からなるが、全て初期の頃の作品。当時、フランスでは、ピアノ用のヴァルス(ワルツ)の作曲が盛んであり、その中で書かれた作品。「マズルカ」は、1875年頃の作品。マズルカというとショパンを思い起こすが、フォーレのマズルカは、ショパンのそれとは少々趣を異にする。

 ピアノのジャン・ユボーは、フランス出身。パリ音楽院で学ぶ。13歳でピアノ科の首席。17歳でローマ大賞の二等賞を獲得する。さらに25歳でヴェルサイユ音楽院の院長に就任。その後、パリ音楽院で後輩の指導に当たった。この間、第一線のピアニストとしての活動を展開して、世界的名声を得た。このCDでユボーは、精細を極めた演奏を披露している。しかし、全体としては、神経質というより、ゆったりとした温かみのある演奏であり、フォーレのピアノ曲の真髄に触れるには、もっとふさわしいピアニストと言えるのではないか。きちっとした構成力が印象に残り、単なるフォーレの情緒的な面の後追いではないところが、その魅力の源泉となっているようだ。全4枚のCDが、一貫した姿勢で貫かれているところが、この録音を一際高いところに押し上げている。よく、一貫した姿勢で弾かれた演奏は、単調に陥りやすいものであるが、このCDのユボーの演奏だけは、それとは異なり、聴き込めば聴き込むほど味わい深く、フォーレの醸し出す独特の音の世界を噛みしめることができる。ある意味では、古き良き日を思い起こさせてくれる演奏内容ではあるが、さりとて、現在にも通じる新鮮さに微塵も欠けていないところに深みが感じとれる演奏内容である。(蔵 志津久) 


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