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◇クラシック音楽CD◇ピレシュのモーツアルト:ピアノ協奏曲第21番/第26番「戴冠式」

2010-06-22 09:19:35 | 協奏曲(ピアノ)

モーツアルト:ピアノ協奏曲第21番
         ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」

ピアノ:マリア・ジョアン・ピレシュ(マリア・ジョアオ・ピリス)

指揮:テオドール・グシュルバウアー

管弦楽: リスボン・グルベンキアン室内管弦楽団
      リスボン・グルベンキアン管弦楽団(第26番「戴冠式」)
     

CD:RVC RECD-2843

 マリア・ジョアオ・ピリスは、1944年生まれのポルトガル出身の、日本でも知名度が高い、お馴染みのピアニストであるが、最近、ポルトガル語の発音に近い「マリア・ジョアン・ピレシュ」が使われ始めてきており、どうも今後はピリスでなくピレシュと表記されそうな気配である。このためここではピレシュを使う。ピレシュのピアノ演奏は、ピアノと真正面から向かい、少しの曖昧さのない明確なタッチを基本に、明るく、ニュアンスに富んだところが特徴と言える。どちらかというとギーゼキングやゼルキンなどのピアノ演奏に通じたものが感じられるが、これらの男性のピアニストでは表現しきれないような、微妙なタッチがリスナーを魅了するのだ。そんなピレシュのピアノに最も向くのは、モーツアルトやショパンであると思う。これまでピレシュの弾く独奏曲のCDを紹介してきたが、今回はモーツアルトの2曲のピアノ協奏曲である。

 ピアノ協奏曲第21番は、ピレシュのピアノ演奏の特質と曲とが絶妙にマッチし、この上ない名演奏を聴かせる。第1楽章のピアノの出だしからして軽快で明るい表情が何ともいえない。暫くして奏でられるメロディーは天国的とでも言ったらいいのであろうか、この世のものとも思えない美しさに彩られる。正にピレシュの独壇場といった感じであり、一転して翳りが見え隠れする表現も群を抜いている。第2楽章の出だしは、あまりにも有名であるが、ここでもピレシュの、ゆっくりと透明感ある表現が光る。それに何といっても彼女特有のニュアンスに富んだ表情が、曲の持ち味を一段と輝かしいものにしている。最後の第3楽章は、スピード感に溢れ、オーケストラと対話するように演奏を進めていく。もうこれは数ある同曲の録音の中でも1、2を争う出来栄えといっても良かろう。

 ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」は、モーツアルトの全作品の中でも人気の高い曲だが、大抵の場合、ピアニストは愛称通り如何にも戴冠式らしく堂々と華かに演奏するが、ここでのピレシュの演奏は、その逆を行くように、微妙なニュアンスを前面に出し、優雅に振舞う。この辺は、女流ピアニストの良さが全開したような展開で、思わず聴き惚れてしまう。一方、テオドール・グシュルバウワー指揮のリスボン・グルベンキアン管弦団はというと、戴冠式の華やかな雰囲気を漂わせる演奏に徹している。これがピレシュの演奏と意外にうまくマッチして、透明感のある繊細な美しさに加え、華やかさをも同時に備えた「戴冠式」を誕生させることに成功したようだ。これまで、あまりにも華やかさばかりを強調した演奏を聴かされてきた耳には、ピレシュ・グシュルバウワーのコンビによって、新しく生まれ変わった「戴冠式」は、とっても新鮮に聴こえる。

 私は09年4月にピレシュが来日し、チェロ奏者のパヴェル・ゴムツィアコフと共演した演奏を聴く機会を得た。このときピレシュはショパンのピアノソナタ第3番を演奏したが、繊細なニュアンスと同時にファンタジーに富んだ演奏に満足させられた。ピレシュは歳を取るにつれて表現力が一層大きくなったような印象を受ける。その時配られた解説書にピレシュの近況が次のように書かれていたので、最後に紹介しよう。「ピリスは1970年以来、芸術が人生、社会、学校に与える影響に没頭、社会において教育学的な理論をどのように応用させるか、その新しい手法の開発に身を投じてきた。・・・1999年に芸術研究のためのセンター、ベルガイシュを創立、現在、べルガイシュににおける哲学と教育を、スペインのサマランカやブラジルのバヒアに広めている。2005年、“アート・インプレッションズ”という演劇、ダンス、音楽の実験的グループを結成した」。      


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