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★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇シュナーベルのモーツァルト:ピアノ協奏曲/ピアノソナタ選集

2011-03-01 11:31:21 | 協奏曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第19、20、21、24、27番
        2台のピアノのための協奏曲
        ピアノソナタ第12、16番
        ロンドKV.511

ピアノ:アルテュール・シュナーベル
    カール・ウルリッヒ・シュナーベル(2台のピアノのための協奏曲)

指揮/管弦楽:マルコム・サージェント/ロンドン交響楽団(第19、21番)
          エイドリアン・ボールト/ロンドン交響楽団(2台のピアノのための協奏曲)
          ジョン・バルビノーニ/フィルハーモニア管弦楽団(第27番)
          ワルター・ジュスキント/フィルハーモニア管弦楽団(第20、24番)

CD:EMI CHS 7 63703 2

 アルテュール・シュナーベル(1882年―1951年)は、オーストリアの名ピアニストで、わが国において、特にベートーヴェンのピアノ演奏にかけては右に出るものはいないと言われるほど、その名は当時轟き渡っていたので、年配のリスナーには懐かしいピアニストであろう。シュナーベルはウィーン音楽院で学び、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番でソリストとしてデビューしたというからモーツァルト演奏にかけても一寡言あるのであろう。フルトヴェングラーらと共演をしたりしている。1927年にベートーヴェンのピアノソナタの全曲演奏を7夜にわたって開催し、「ベートーヴェン弾き」としてのその名を不動のものとする。1938年からはアメリカに本拠を移して活動を開始している。第二次大戦後はアメリカとヨーロッパを行き来しながらコンサート活動を行った。その演奏スタイルは、ギーゼキング(1895年―1956年)と共通する「新即物主義」に傾倒したような雰囲気を漂わせている。多分それは、当時最先端の演奏スタイルであったのであろう。基本は楽譜に忠実で理知的な演奏であり、あまり主観的に溺れないところに、今でも新鮮さが感じられるのである。

 今回のCDは、そんなシュナーベルがモーツアルトのピアノ協奏曲とピアノソナタを3枚のCDに収めたもので、シュナーベルのモーツアルト演奏を存分に聴くことができる貴重な録音。録音は一番古いのが1934年で、一番新しいのでも1964年と、今から70年以上前のもの。しかし、録音状態は比較的良く、音量も豊富で、現在鑑賞するのにそれ程支障とはならない(勿論、現在の録音レベルとは比較にはならないが)。ただ、ピアノ協奏曲第27番の録音状態だけは、あまり勧められない(しかし、この演奏内容が一番いいのだから皮肉なことだ)。現在ではこんなCDは入手不可能だろうと思ってアマゾンを探してみたら、何と入手可能であった。ほとんどがベートーヴェンの演奏の録音の中にモーツアルトが2枚あった。1枚は、ピアノソナタ第8、12、16番を収めたもの、もう1枚は、ピアノ協奏曲第27番と2台のピアノのための協奏曲を収めたものである。

 シュナーベルが演奏したものの録音状態は、決して良くないが、これらの録音を年配のリスナーが昔を思い出して聴くためだけにあるとしたら、あまりにもったいないと私は考えている。何故かと言えば、現在これほどの集中力で曲の本質に迫る演奏家は非常に少なくなっているからだ。今の演奏家の多くは、コンサート会場で、演奏技巧の高さだけを競っているように聴こえてならない。・・・少なくとも私には。これは、現在コンクール第一主義が幅を利かせて、有名なコンクールで1位にならなければ一流の演奏家として認められない風潮が蔓延していることと無縁なことではあるまい。シュナーベルの弾くモーツァルトは、どれも余分な装飾的な部分をそぎとり、モーツァルトがつくりだそうとした音そのものに迫ろうとしている姿勢がひしひしと感じられる。その結果として、逆にモーツァルトらしい豊潤な雰囲気がそこはかとなく漂ってくるのだ。そこには、今の演奏家には求められないような、音楽に対する厳しい姿勢が感じられる。

 モーツァルト:2台のピアノのための協奏曲は、シュナーベルが息子のカール・ウルリッヒ・シュナーベルと共演した録音で、何ともインティメイトな雰囲気が楽しい。何の理屈も必要ないモーツァルトの世界が広がる。この曲1曲聴いただけで今の演奏とは何かが違うことが聴き取れる。現在の演奏家はモーツァルトを解釈しすぎて、聴いていて疲れることが多い。それに対しシュナーベル親子の演奏するモーツァルトは何と自然であることよ。それに音がピュアなのだ。モーツアルト:ピアノソナタ第12番を聴いてみよう。ここでは、シュナーベルは思いきっリ劇的な演出を利かせてモーツァルトを弾いていることが分る。モーツァルトのピアノソナタほど演奏するのに難しい曲はないというピアニストいるくらい、ある意味で難曲だ。ただ、楽譜のまま弾いては面白くもおかしくもない。シュナーベルの弾くモーツァルトのピアノソナタは、何か物語を聞かせてもらっているようで、心が安らぐ。この一連のモーツァルトの録音で残念なのがピアノ協奏曲第27番だ。演奏内容は、超一品なのに録音状態があんまり芳しくない(それでも鑑賞には堪えられる範囲)。ここでシュナーベルは、モーツァルトがピアノ協奏曲で到達した至高の精神を、自己の中で完全に消化し弾き進む。特に第2楽章の演奏は異常にゆっくりとしたもので、何か神がかりのような神秘的な趣さえ漂わす。私はこんな深いモーツァルトのピアノコンチェルトの演奏を、これまで聴いたことがない。(蔵 志津久)      


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