
モーツアルト:ピアノ協奏曲第20番/第21番
ピアノ/指揮:ゲザ・アンダ
管弦楽:ウィーン交響楽団
ゲザ・アンダはもう32年も前に亡くなったピアニストにもかかわらず、その録音は今でも輝きを失わず、多くのリスナーによって愛されている。また、現在、ゲザ・アンダ国際コンクールが開催されており、その名は過去のものにはなっていない。このような例は意外に少ないことに気付かされる。それと、映画「みじかくも美しく燃え」のサウンドトラックに、ゲザ・アンダとモーツアルテウム・カメラータ・ザルツブルグとによるモーツアルトのピアノ協奏曲第21番が使われたことも、ゲザ・アンダの名前を一層ポピュラーなものにしているのではなかろうか。
このCDはゲザ・アンダがこの世を去る3年前に録音されたものだ。ピアノと指揮がゲザ・アンダ、管弦楽がウィーン交響楽団というメンバーで、モーツアルトの第20番と第21番の2曲が収められており、有名なモーツアルテウム・カメラータ・ザルツブルクとの録音とは異なる盤。最晩年に録音されたためか、内容の深い名演となっており、ウィーン交響楽団のいつも以上の熱演振りも聴いていて心地いい。
ゲザ・アンダのモーツアルトは、安定感のある堂々と真正面からモーツアルトと向き合った演奏を聴かせ、聴いた後にも満足感が存分に残るといった趣だ。透明感がある上、メロディーを美しく歌いあげ、微妙なニュアンスもたっぷり含んでいるのだが、それでいて、病的なところが少しもない、すがすがしい演奏に彩られている。ゲザ・アンダがピアノと指揮とを一人で行っているが、この結果、演奏に一体感が生まれ、成功している。(蔵 志津久)