【ケンブリッジ(米マサチューセッツ州)和田浩明】人を笑わせ、考えさせて科学への興味を誘う研究などに毎年贈られる「イグ・ノーベル賞」の化学賞を日本人研究者の山本麻由さん(26)が受賞し、ハーバード大学で4日授賞式が行われた。日本人の同賞受賞は12件目。ウシの排泄物からバニラの香り成分「バニリン」を抽出した研究が対象。山本さんは「受賞は廃棄物の活用法を知ってもらえるよい機会。ただ、この方法で抽出したバニリンは食物には向かないかも」と語った。
山本さんは国立国際医療センター研究所の研究員だった04年に今回受賞した抽出方法を開発した。牛糞1グラムに水4ミリリットルを加え200度で60分間加熱すると、1グラムあたり約50マイクログラム(マイクロは100万分の1)のバニリンが抽出できた。
バニリンは樹木などの木質成分「リグニン」から生成するため、馬や山羊などの草食動物の排泄物も利用可能だという。抽出コストはバニラ豆を原材料にする方法に比べ「およそ半分」(山本さん)。シャンプーやロウソクの芳香添加物などの応用が考えられる。
授賞式では76年のノーベル化学賞受賞者、ウィリアム・リプスコム氏から同賞の今年のテーマ「ニワトリ」のトロフィーが手渡された。また、山本さんの名が冠されたアイスクリームを壇上のノーベル賞学者らが試食する一幕もあった。
「裏ノーベル賞」とも言われるイグ・ノーベル賞は米国の「ユーモア科学研究ジャーナル」誌の編集長、マーク・エイブラムス氏が91年に創設。これまで日本人が11件で受賞している。
今年の受賞は10分野で▽平和賞(米空軍ライト研究所、敵兵同士を恋に陥らせ士気を削ぐ化学兵器の研究)▽言語学賞(スペイン、逆に話された日本語とオランダ語をラットが区別できないことを発見)▽経済学賞(台湾、銀行強盗捕捉装置の発明)など。
[毎日新聞 / 2007年10月05日]
http://mainichi.jp/photo/news/20071005k0000e040025000c.html
【イグ・ノーベル賞、「牛の糞からバニラ」で邦人女性が受賞】
ボストン──「笑えるとしか言いようがなく、しかも記憶に残り、人々を考えさせる業績」に贈られる年恒例のイグ・ノーベル賞の第17回授賞式が4日夜、米ハーバード大学サンダース・シアターで催され、牛の糞(ふん)からバニラ香料成分を抽出した日本の山本麻由さん(26)が化学賞を受賞した。
国立国際医療センター研究所に所属する山本さんが受賞した研究内容は「牛糞からバニラの芳香成分vanillinの抽出」。牛の糞ときいて、会場からはどよめきが起こった。壇上では、牛の糞から抽出した香料を使った「バニラ」アイスクリームが式に多数参加した本家の「ノーベル賞」受賞者に配られ、教授らは意を決した表情で口に運んでいた。
今年の授賞式のテーマは「チキン」。このテーマは、授賞者選考には関係ないものの、式典途中に演じられるミニ・オペラや、過去の受賞者のスピーチ、授賞トロフィーなどのモチーフとなった。
式典中の注意事項として、鶏の投げ込みが禁止されたほか、授賞式の風物詩となっている紙ヒコーキについては、「航空関連テロ」対策が強化されている昨今の情勢を踏まえ、飛ばすことが原則禁止となった。しかし、サンダース・シアター基準に準ずるものだけは投げ飛ばすのが許された。
毎年、壇上の紙ヒコーキを掃除する役目を担うのはノーベル賞受賞者のロイ・グラウバー教授。今年もすげ笠をかぶってほうきを手にした姿で登場、壇上で紙ヒコーキを待ち構え、喝さいを浴びた。
今年の受賞一覧は以下の通り。
○化学賞:「牛糞からバニラの芳香成分vanillinの抽出」 牛の糞からバニラ香料成分の抽出に成功した、国立国際医療センター 研究所の医療生態学研究部の山本麻由氏に授与。壇上では、この抽出した香料を使ったアイスクリームが歴代のノーベル賞受賞者に配られた。
○医学賞:「剣飲みとその副作用について」の研究で、英国グロスターシャー州の放射線医師ブライアン・ウィットコーム氏と、米国人協力者のダン・メイヤー氏に授与。世界的に有名な剣飲みのパーフォーマー、メイヤー氏が研究に協力し、3カ月間で約2000本の剣を飲んで、その際の生体反応について調査した。授賞式では、壇上でメイヤー氏が剣飲みの実演を行い、盛大な拍手を受けた。
○物理学賞:「シーツの皺(しわ)のつき方について」研究した米ハーバード大学のラクシミナラヤナン・マハデバン氏と南米チリのエンリケ・セルダ氏に授与。
○生物学賞:「寝床で一緒に眠り、ムズムズ感を引き起こすダニ、昆虫、クモ、シダ類、菌類の全統計調査」を実施したオランダのヨハンナ・ファン・ブロンズウィック博士に授与。
○言語学賞:「ラットは日本語の逆さ言葉とオランダ語の逆さ言葉を聞き分けられない」ことを示したバルセロナ大学の研究チームに授与。
○文学賞:「アルファベット順に並び替える際に、英語の定冠詞『the』によって引き起こされる混乱」について研究した、オーストラリア・ブルーマウンテンズのグレンダ・ブラウ氏に授与。
○平和賞:「同性愛爆弾」を開発した米空軍ライト研究所に授与。この化学兵器は、敵の兵士間に広く、同性愛の感情の芽生えさせるという。
○栄養学賞:「底がないスープ皿で自動的に給仕される場合における、人間の食欲の限界について」を研究した、コーネル大学のブライアン・ワンシンク氏に授与。
○経済学賞:「銀行強盗を捕らえるネットの開発」で特許を取得した、台湾のクオ・チェン・シェ氏に授与。しかし、シェ氏の行方は数年前から分かっておらず、司会者は同氏についての情報提供を呼び掛けた。
○航空学賞:「バイアグラに時差ぼけ解消の効果」があることを発見した、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるキルメス国立大学の研究者、パトリシア・アゴスティーノ氏とサンティアゴ・プラノ氏に授与。両氏は今年、男性の勃起(ぼっき)不全治療薬「バイアグラ」が時差ぼけの解消に有効だとする研究結果を発表し、話題となった。
[cnn.co.jp / 2007年10月04日]
http://www.cnn.co.jp/science/CNN200710050006.html