シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「危険なプロット」(2012年フランス映画)

2013年11月11日 | 映画の感想・批評
 フランスのリセ(高校)――文豪フローベールの名が冠せられた学校に通う少年があるとき文学に目覚める。もともとかれは数学が得意なのだが、毎週国語の宿題に課される作文に凝り出す。長年作文指導をしている初老の教師は自宅に生徒の作文を持ち帰っては、妻を相手に近ごろの生徒の文章力の低下を嘆きながら採点しているが、くだんの生徒の作文に感心して個別指導に熱を上げるのである。
 ところが、その内容にいささか問題がある。少年は数学の苦手な級友に取り入って親友となり、その家庭の内情を作文に暴くのだ。教師も最初は興味本位でおもしろがって読んでいたが、虚実ない交ぜの作文というより少年が企図したとおりに親友の家庭が崩壊寸前に至るのを目の当たりにして、さすがに戦慄する。おまけに、この少年は美貌と頭脳と文才を武器に誰にでも取り入る術を心得ている。このあたりはフランソワ・オゾンの自家薬籠中の設定というべきだろう。教師も親友もその両親も、いや教師の妻さえも少年の魅力にほだされて虜にされる。教師は少年が親友の家庭内をかき乱すという筋書きに、「パゾリーニを気取っているのか」と皮肉る場面がある。その台詞の前に、実は私もその成り行きにテレンス・スタンプ扮する妖しい魅力をもった美青年が一家を蠱惑して滅ぼすという映画「テオレマ」を想起したが、やはり狙いはそのとおりだったわけだ。
 果たして親友一家は「テオレマ」のごとく悪魔のような美少年に翻弄されて崩壊するのだろうか。あるいは最後に代償を負うのは誰なのか?むろん、モラルの欠如以外は非の打ち所のないこの尊大な少年が負うわけがない。そうなると自ずと犠牲者は知れてしまうだろう。それは見てのお楽しみだ。
 朗読家としても有名だというファブリス・ルキーニの教師は適役だし、少年を演じた新鋭エルンスト・ウンハウアーもいい。しばらく迷走を続けていた異才オゾンの久々の秀作としてお奨めしよう。(ken)
 
原題:Dans la maison
監督:フランソワ・オゾン
原作:ファン・マヨルガ
脚色:フランソワ・オゾン
撮影:ジェローム・アルメーラ
出演:ファブリス・ルキーニ、エルンスト・ウンハウアー、クリスティン・スコット・トーマス


最新の画像もっと見る

コメントを投稿