シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ミステリと言う勿れ」(2023年 日本映画)

2023年11月08日 | 映画の感想・批評
 たいていの映画は10分も見ていればおもしろいかつまらないかわかるものですが、この映画は三分の一近くまでいっても一向に興が乗らず、こりゃダメだと諦めかけた途端、俄然おもしろくなるという不思議な作品です。
 私は映画でも小説でも恋愛ものが苦手で、スリラー・サスペンス、ミステリ、犯罪ものを得意とするのですが、かといってこの手の作品は食欲をそそりません。しかし、食わず嫌いというやつで、けっこう楽しめたと白状しておきます。
 原作の漫画も読んでいないし、テレビ化されたドラマも知りません。そういう前提で申し上げると、台詞にも出てくるとおり横溝正史ミステリの傑作「犬神家の一族」のパロディだといえます。私がこどもの頃は名探偵といえばシャーロック・ホームズか明智小五郎だったのですが、いつの間にかエルキュール・ポワロか金田一耕助の時代になりました。江戸川乱歩が明智を創造したのは大正末期。横溝の金田一は戦後の登場です。
 この作品が横溝へのオマージュだということはボサボサ頭の金田一を意識した天然パーマの探偵(菅田将暉)の登場で、ミステリファンならわかることです。
 地方の資産家一族の当主が亡くなり、その孫たち4人が集められます。当主が示した謎かけを解いた者ひとりだけが全財産を相続できるというわけです。蔵が4つあって、それぞれに論語からとられた名前がついているという思わせぶりな出だし。欧米ならさしずめマザーグースの童謡の引用といった趣向でしょうか。過去には遺産相続を巡る争いから謎の死を遂げた者が複数いるという一族の黒い歴史が語られる。これから起こるであろう連続殺人事件を予測させる設定です。
 ところが、見終わってから気づいたことがあります。連続殺人事件の幕開けと見せかけておいて結果的に「過去の殺人があばかれるだけ」という仕掛けがあります。つまり映画が始まってから誰ひとり殺されない。通常のミステリではあまり見かけないスタイルです。 
 演技陣がぜいたくに配されているのも見どころのひとつです。主役級の俳優を部分的に使ったり、エンドロールが終わってから登場させたりとお遊び気分満載です。2006年版の「犬神家の一族」(市川崑)で重要な役を演じた松坂慶子が脇に回っているのも楽しい。
 探偵君が突如ジェンダー論をぶつ場面があります。けっこうピカピカのリベラルな主張であることに大いに共感しました。そうだ、そうだと合いの手を入れたくなったぐらいです。さらに、この探偵坊やがラストで捕まった犯人に対して「犯罪とは、人間の努力が裏側に表れたものにすぎない」というのもニンマリさせられました。クレジットに紹介されていたように私の贔屓の名匠ジョン・ヒューストン監督「アスファルト・ジャングル」の名台詞です。1950年に公開された強盗映画の名作ですが、スターリング・ヘイドンが渋かった。
 最後にひとこというと、犯人は途中で目星がつきました。ミステリを読み慣れている人にはわかるでしょうが、まあそれでも最後まで飽きさせないおもしろさがありました。(健)

監督:松山博昭
脚本:相沢友子
原作:田村由美
撮影:斑目重友
出演:菅田将暉、柴咲コウ、松下洸平、町田啓太、原菜乃華、萩原利久


最新の画像もっと見る

コメントを投稿