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「梅切らぬバカ」(2021年 日本映画)

2021年12月22日 | 映画の感想・批評


 題名を見てまず思った。この作品はおそらくよく耳にすることわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」に由来するものだろう。我が家にも梅の木がある。確かに花が咲く前に思い切って剪定をしておくと、花芽がしっかりついて大きな実ができるように思うが、“梅切らぬ”にはきっと何か訳があるに違いないと。
 やっぱり出てきた大きな梅の木。しかし、庭から枝が大きくはみ出して、道路を塞ぐような格好に。これは切らないと問題になるでしょう。と、その横で散髪をしている母と息子の姿が。息子と言ってももういいおじさんだ。子どもの頃からの習慣なのだろうか。自分も小学生の頃は父親に散髪をしてもらっていたことを思い出す。何とも微笑ましい光景だ。
 息子には自閉症という障がいがあった。毎日決まった時刻に起きて分刻みの行動をとる。この「毎日同じ」ということが大切で、心を落ち着かせるのだ。馬が大好きで、可愛いぬいぐるみを手放せなかったり、近くにある乗馬クラブのポニーが気になったり、体は大きくても、やっていることはまだまだ少年のよう。そんな50歳になる息子を作業所の仕事に送り出した後母親が思ったのは、このまま共倒れになってしまう前に、何とかして息子を自立させてやりたいということ。まずは作業所のオーナーが勧めるグループホームへの入所を試みたのだが・・・。
 母親の珠子を演じるのは、自らも自閉症の家族を抱えているという加賀まりこ。珠子は占い師。何ともいかがわしい感はあるのだが、そのストレートなものの言い方にかえって客は安心するのか、結構流行っているようだ。加賀まりこだからこそできたと思われる強くて優しい母親像。「生まれてきてくれて母ちゃん幸せだよ、ありがとう。」という言葉には、苦労はしたけれども、生きていく上で大切なことを貴方にいっぱい教えてもらったよ、という気持ちがひしひしと伝わってきて胸を打つ。
 忠(ちゅう)さんこと息子の忠男を演じるのはドランクドラゴンの塚地武雅。俳優としても活躍著しい彼は、役作りに非常に熱心で、今回も実際に自閉症の方や家族と接し、あの細やかな演技に活かすことができたという。隣に引っ越してくる里村家との関わりも面白い。庭からはみ出た梅の木や、忠さんのあり得ない行動に困惑する両親と、純真な心で接する小学生の息子・草太。初対面の家族なら当然感じてしまうマイナス方向の感情が、珠子や忠さんと関わるうちにプラスに転じていく様子が小気味よくつながれていく。誰もがそうそう、あるあると思われる日常が、忠さんと関わる作業所やグループホーム、近隣住民たちの言動からも飾り気なく感じ取れ、同じく自閉症を扱ったドキュメンタリー映画「だってしょうがないじゃない」の編集に関わったという新鋭和島香太郎監督の「障がい」ということに対する真摯な思いが、じわじわと伝わってくる。
 路上にまではみ出す梅の木があってもいいじゃない。ちょっと気をつければ、何も不自由なことはない。毎年美しい花を咲かせ、薬にもなる実をいっぱいつけてくれるのだもの。
(HIRO)
 
監督:和島香太郎
脚本:和島香太郎
撮影:沖村志宏
出演:加賀まりこ、塚地武雅、渡辺いっけい、森口瑤子、斎藤汰鷹(たいよう)、林家正蔵、真魚、高島礼子


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