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「キー・ラーゴ」(1948年 アメリカ)

2021年01月13日 | 映画の感想・批評
 今回は旧作を取り上げる。わが最愛のスター、ハンフリー・ボガートの代表作のひとつであるとともに、かれの盟友ジョン・ヒューストン監督が舞台劇を映画化した秀作である。
 フロリダ半島の南端に位置するキー・ラーゴ島のホテルに退役少佐(ボガート)が第二次大戦で戦死した部下の父親と未亡人に会うため、やって来る。ホテルを経営する父親に扮するのは米国稀代の名優ライオネル・バリモア。未亡人を演じるのはボギーの愛妻ローレン・バコール。
 半島と島は道路でつながっていて、バスを降り立つボギーのシャツの背中が汗でびっしょりなのがリアルだ。真夏のホテルに着くと、いかにもウサン臭い連中がわが物顔でロビーをうろつき、きょうは貸し切りだから帰れとにべもない。異様な雰囲気を漂わせる連中はいずれも堅気でなく、情婦とおぼしきアル中の女もいて、扮する「駅馬車」のクレア・トレヴァーが巧い(これでアカデミー賞最優秀助演女優賞)。調べたところ舞台出身だった。もうひとりやたら芸達者なギャングの手下がいて、かれも舞台の人だった。
 さて、ホテルの一室に閉じこもり、なかなか姿を現さないブラウン氏という首領がとうとう顔を出す。一度見たら忘れられない強面のギャング役者にしてハリウッドきっての演技功者エドワード・G・ロビンソンの登場である。ブラウンとは偽名で、実は国外追放の身であるシカゴの大物ギャング、ジョニー・ロッコなのだが、キューバから密入国し、今夜このホテルで大きな取引を予定しているという。しかし、ハリケーンに見舞われて相手はなかなかやって来ない。ロッコ一家も足止めを食って動くに動けない。舞台劇としては格好のシチュエーションといえる。
 バリモアの計らいで宿泊することになったボギーは一見戦争のヒーローのように見えるが、実は災難に巻き込まれることを恐れる怯懦なエゴイストとして、前半は未亡人の軽蔑を受けるという役どころ。しかし、後半、そのボギーが窮鼠となって正義のために悪と対決する骨っぽい男に変身すれば、対する悪の権化のようなロッコがハリケーンに怯える小心者の正体を露呈させたりするところが面白い。
 外は荒れ狂う暴風雨、周囲と隔絶された島の屋内に閉じ込められた登場人物たちの息づまるような駆け引きがハラハラドキドキさせる。舞台では用いることのできないクローズアップを多用したのは名案だ。ドイツ表現主義の代表的キャメラマン、カール・フロイントがいい仕事をしている。ボギーも、もともと舞台から出発してハリウッドでは下積みが長かっただけに陰影のある心理的な演技のできる人だから、居並ぶ名優たちとの顔芸合戦が見どころである。よっ!大統領と向こうから声がかかりそうな千両役者たちの揃い踏みである。(健)

原題:Key Largo
監督:ジョン・ヒューストン
原作:マクスウェル・アンダーソン
脚色:リチャード・ブルックス、ジョン・ヒューストン
撮影:カール・フロイント
出演:ハンフリー・ボガート、エドワード・G・ロビンソン、ローレン・バコール、ライオネル・バリモア、クレア・トレヴァー


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