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「黒いオルフェ」(1959年 フランス・ブラジル・イタリア)

2021年03月03日 | 映画の感想・批評
 ギリシア神話のオルフェとユリディスの物語をカーニバルで盛り上がるリオデジャネイロを舞台に再現した悲恋物語。原作はファベーラ(貧民街)の実情を告発した社会派の舞台劇だが、映画は運命的な出会いと死、魂の再生を描いた哲学的な作品になっている。映画が始まるやいなやカーニバルの熱狂と激しいサンバのリズムに包まれるが、しばらくすると陽気に踊る人びとの映像にボサノバ「フェリシダージ」のメロディが重なる。「悲しみは果てしなく、幸せははかない、貧しい者の幸せはカーニバルがもたらす・・・」と哀愁に満ちた歌詞が流れる。喧騒と静寂があざやかにコラボしているオープニング。リオの美しい海岸が見える丘で、ベネジットという少年が友人のゼッカが上げる凧を見て「太陽だ」と叫ぶ。象徴的なシーンだ。太陽はこの作品を解読するキーワードになっている。
 カーニバルの前日、従姉を訪ねてリオにやって来たユリディスは市電の運転手であるオルフェと恋に落ちる。オルフェは婚約者がいるにもかかわらず、初対面でユリディスに夢中になってしまう。ユリディスは自分を殺しにくる男の存在におびえていたが、やがてそれが死神であることがわかる。ユリディスはほどなく亡くなる運命にあり、神の使いである死神が彼女を迎えに来ていたのだ。カーニバルの夜、ユリディスが事故で死ぬと、悲嘆に暮れたオルフェはユリディスを求めて街をさまよう。祈祷所に導かれたオルフェは霊媒師が呼び寄せたユリディスの声を聞く。「振り返らないで」と言われたにもかかわらず、オルフェは後ろを向いてしまいユリディスと永遠の別れをすることになった。翌朝、オルフェは遺体安置所でユリディスの亡骸を見つける。ユリディスを抱きかかえ家に戻ると、嫉妬に狂った婚約者が投げた石が当たり、オルフェはユリディスと共に崖から落ちて死ぬ。
 この映画には神秘的なエピソードがいくつか出てくる。オルフェの古いギターには「オルフェは私の主人」と書いてあり、ギターが代々オルフェという名前の人物に受け継がれてきたことが示されている。できたばかりの曲「カーニバルの朝」をオルフェが初めて披露すると、ユリディスはこの曲に聴き覚えがあると言う。オルフェはベネジットの求めに応じて、歌とギターで太陽を昇らせる。ここには魂や精神、記憶が時代を越えて人々の心で生き続けるという世界観が息づいている。厳密な意味での輪廻転生ではないが、肉体の死が生の終わりではないことを暗示している。
 映画の最期でユリディスの化身のような少女が登場し、海の見える丘の上でベネジットやゼッカと共に踊る。ゼッカがギターを弾いて太陽を昇らせると、朝日が子供たちの顔を照らし、少女はゼッカに「今はあなたがオルフェね」とつぶやく。「私のために弾いて」少女は海に輝く太陽を背に踊り出す。サンバのリズムが高まり少女の体が移動を始めると少年たちはその後を追う。まるで魂の再生を祝うかのように三人は晴れやかに踊り続ける。(KOICHI)

原題:Orfeu Negro
監督:マルセル・カミュ
脚本:マルセル・カミュ  ジャック・ヴィオ
撮影:ジャン・ブルゴワン
出演:ブレノ・メロ  マルペッサ・ドーン


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