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「ムーンライト」(2016年、アメリカ映画)

2017年05月01日 | 映画の感想・批評


 この映画は、今年のアカデミー賞で最優秀作品賞を獲得した秀作である。「リトル」「シャロン」「ブラック」の3章立てで構成されている。
 冒頭、10歳くらいの男の子が学校帰りに何人もの同級生に追っかけられて無人のアパートの一室に隠れる。いじめである。そこへクスリの売人をやっている長身の黒人男が偶然やって来て怯える少年を見つけ、レストランで飯を食わせたあと、とりあえずガールフレンドの家に連れて行くのだ。この男が威圧感はあるがヤケにやさしくて、そのまたガールフレンドも子どもを扱うのがうまい。こうして、母一人子一人の少年シャロン(愛称リトル)は男の庇護下で成長する。母親は薬中でほとんど生活能力を欠いており、少年は男とそのガールフレンドを頼るしかないのだが、その母親が息子を男にかまわれるのが我慢ならないらしくて、昂然と言い放つセリフが痛い。「あの子がなぜいじめられるのか、歩き方を見ればわかるでしょ」と。
 黒人、母子家庭、貧困はそれだけでも十分に弱者として抑圧される対象となるのだが、西ヨーロッパならまだしも、ここはアメリカだし、おまけに保守的な南部だ。男であれば当然にマッチョであらねばならないしタフであることが求められ、ましてゲイであるなどもってのほか、10歳の少年ですらもはや徹底的に忌避され差別される客体となるのである。
 やがて、高校生となったシャロンは、いかにもちっぽけなという感じの「リトル」という愛称から、かれを唯一理解する腕力自慢の友人に“ブラック”と呼ばれるようになる。少し強そうな名前ではないか。しかし、シャロンはこの友人を巻き込んだある事件がきっかけで少年院に収監されるのだ。
 人生の歯車が狂ったまま、”ブラック”は町を出たが、結局、少年期にかれをかばってくれた今は亡き男と同じ道(クスリの売人)を歩んでいるのである。機会均等の国でさえ、このようにマイノリティは埋没して行かざるを得ない現実があるのだろう。何か、世界的な潮流という予感がして落ち着かなくなるのは私だけだろうか。
 かれを”ブラック”と名づけた高校時代の友人との久方ぶりの再会で、ふたりはかつて夜の浜辺の月光の中で忘れられない衝撃的な出来事を経験したのだが、その想い出にひたるラストがせつなくて、いとおしい。(健)

原題:Moonlight
監督:バリー・ジェンキンス
原作:タレル・アルヴィン・マクレイニー
脚本:バリー・ジェンキンス
撮影:ジェームズ・ラクストン
出演:トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ジャネール・モネイ、ナオミ・ハリス、アシュトン・サンダーズ、マハーシャラ・アリ


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