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「この世界の片隅に」 (2016年 日本映画)

2017年02月11日 | 映画の感想・批評


 昨年11月、全国63スクリーンという小規模公開でスタートした本作、今週(2月11日)はなんと14週目にして289スクリーンまでに拡大。その間、客足が全く衰えないという驚きの興行を展開中だ。キネマ旬報ベストテンでは執筆者と読者選出のダブルでベストワン&監督賞を受賞。他にも数々の映画賞を受賞して、名実ともに2016年を代表する作品となった。
 原作は「夕凪の街、桜の国」などで知られるこうの史代が描いた連載漫画。戦時下、見知らぬ土地に嫁いだ少女の日常を描いたこの原作を見初めた片渕須直監督が劇場用アニメ化を切望し、こうのから快諾を得る。片渕監督といえば日大芸術学部映画学科でアニメーションを専攻。在学中に宮崎駿監督と出会い、数々のジブリ作品とかかわりながら09年に「マイマイ新子と千年の魔法」を発表したアニメ界次世代のエースだ。
 この作品のすごいところはここからで、製作資金調達のために“クラウドファンディング”という方法を実施。集まった支援金を作品への出資企業を募るためのパイロットフィルムの製作費用にあてたという。エンドクレジットにも登場するが、その数実に3374人、4000万円近くの資金が集まり、この映画の誕生に大きな力となった。
 「この映画が見たい!」という多くの人々の支援を受けた片渕監督、製作への意欲が一段と高まったのは間違いない。舞台となる広島や呉の街を徹底調査。戦前戦中の文献や写真資料を調べたり、当時住んでいた人たちに聞き取りをしたり、あらゆる手段を駆使して再現した。そして使われる言葉や当時の生活習慣、流行なども忠実に取り入れ、苦しいながらも懸命に生きる人々の姿を生き生きと表現してみせた。
 もうひとつ、集客に大いに貢献していると思われるのは、コトリンゴの音楽だ。予告編で流れる「悲しくてやりきれない」を聞くと、この映画、ぜひとも映画館で見てみたいと思わずにはいられない。すごい吸引力だ。確かに、空襲や原爆投下、家族との死別、大けがなど悲しくてやりきれないことはいっぱい描かれているのだが、それ以上に心を打つのは、どんな苦境に遭遇しても、人は生きていかなければならないということ、生きるということの力強さだ。これは自然災害や事故が続く現代にも通じることだろう。主人公・すずを担当したのんの柔らかい声が気持ちよく耳に響く。
 ありがとう、こんな素敵な映画を届けてくれて。
 (HIRO)
 
監督:片渕須直
脚本:片渕須直
原作:こうの史代
撮影:熊澤祐哉
作画監督:松原秀典
音楽:コトリンゴ
声の出演:のん、細谷佳正、小野大輔、稲葉菜月、尾見美詞、潘めぐみ、岩井七世


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