シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

執筆者の2018年ベストテン発表

2019年01月09日 | BEST


 新しい年を迎え、読者の皆さまには旧年中のご愛読に感謝し、今年もまた引き続きご贔屓いただきますようお願い申し上げる次第でございます。
さて、恒例の執筆者によるベストテン発表です。ベストテンは選ばれた作品の価値を表すものではなく、選んだ人の個性を図らずも表現してしまうものだという本質を前提にお楽しみください。
注記:原則として2018年1~12月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。日本公開題名・人名表記はキネマ旬報映画データベース、外国映画の原題・製作年・製作国はInternet Movie Database に従った。


◇久
【日本映画】
1位「万引き家族」(是枝裕和)

2位「羊と鋼の森」(橋本光二郞)

3位「空飛ぶタイヤ」(本木克英)

4位「日日是好日」(大森立嗣)

5位「ビブリア古書堂の事件帖」(三島有紀子)


【外国映画】
1位「サーミの血」(Sameblod アマンダ・シェーネル 2016年スウェーデン=ノルウェイ=デンマーク)

2位「ロープ/戦場の生命線」(A Perfect Day フェルナンド・レオン・デ・アラノア2015年スペイン)

3位「希望のかなた」(Toivon tuolla puolen アキ・カウリスマキ 2017年フィンランド=独)

4位「シェイプ・オブ・ウォーター」(The Shape of Water ギレルモ・デル・トロ 2017年アメリカ)

5位「ガザの美容室」(Dégradé タルザン&アラブ・ナサール 2015年パレスチナ=仏=カタール)

6位「判決、ふたつの希望」(L'insulte ジアド・ドゥエイリ 2017年レバノン=仏ほか)

7位「1987、ある闘いの真実」(1987 チャン・ジュナン 2017年韓国)

8位「ボヘミアン・ラプソディ」(Bohemian Rhapsody ブライアン・シンガー 2018年英=米)

9位「パッドマン 5億人の女性を救った男」(Padman R・バールキ 2018年インド)

10位「ローズの秘密の頁」(The Secret Scripture ジム・シェリダン 2016年アイルランド)



◆HIRO
【日本映画】
1位「万引き家族」
最近の小麦アレルギーの子のコマーシャル(アマゾン提供)を見ていると、主人公夫婦に拾われた佐々木みゆちゃんの演技が、地ではなく、本物の演技をしていたのだとわかる。さすが是枝監督、よくぞここまで芸達者たちを集めたものだ。

2位「友罪」(瀬々敬久)
主役の生田斗真は今年「いだてん」に出演、英太は昨年「西郷どん」で大久保利通を力演と、NHKの大河ドラマでも大活躍の二人。若手俳優の中でもその演技力は誰もが認めるところ。こんな難役も難なくこなせるわけだ。

3位「孤狼の血」(白石和彌)
絶対に東映で映画化しなければ・・・とプロデューサーたちから懇願された白石監督、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズを超えた強烈な映像と、アウトローな物語の展開に胸が締め付けられた。

4位「寝ても覚めても」(濱口竜介)
同じ顔をした二人の男をどちらも愛してしまった女。しかし、一度惹かれたら、やはり生きている間はその人を忘れられないもの。人はなぜ人を愛するのか、その人の何に惹かれるのか、なぜその人でなくてはならないのか。また一つ、心を揺さぶる大人の恋愛映画の傑作が誕生。

5位「カメラを止めるな!」(上田慎一郎)
もはや社会現象となった「カメ止め」。年末年始のTV番組では出演者が出たり、様々なシーンでその手法(ワンカット)が使われ、何とNHKの紅白歌合戦にも登場!!上田監督、ますます第2弾へのプレッシャーが高まっているはず。でも彼ならきっと面白い作品を作ってくれるでしょう。

6位「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」(山田洋次)
日本映画の重鎮となって久しい山田監督、御年87歳。今回も安心して見られた。特に長男演じる西村まさ彦の演技には爆笑。山田監督、次の作品は「男はつらいよ」だって?!まだやり残したことがあるのでしょうか??

7位「日日是好日」
9月に亡くなった樹木希林と黒木華の師弟コンビが織りなす「お茶」の世界。世の中にはすぐにわかるものとわからないものの二種類がある。すぐにわからないものは、とりあえず形を覚えて続けること。長い時間をかけて少しずつ気づいてわかってくるものもあるのだと諭される。

8位「止められるか、俺たちを」(白石和彌)
主人公のめぐみは白石監督自身だった!?70年安保闘争で日本中が騒然としていた中、若松孝二監督率いる若松プロに入り助監督として日々奮闘するめぐみ、ここは白石監督にとっても原点といえる場所だった。大島渚、松田政男、荒井晴彦など次々現れる映画人が懐かしい。

9位「焼肉ドラゴン」(鄭義信)
万博が開催された1970年、大阪のコリアンタウンでエネルギッシュに生きる人々を描いた舞台「焼肉ドラゴン」を映画化。何と言っても韓国人俳優キム・サンホ、イ・ジョンウンの演技に圧倒させられる。よくここまで日本語を覚え、感情を込められたものだと感心。

10位「検察側の罪人」(原田眞人)
ジャニーズ事務所の木村拓哉と二宮和也の演技合戦が最大の見物。「硫黄島からの手紙」で世界に認められたニノはさすがだが、今回ずるずると悪の深みにはまっていくキムタクもなかなか魅せる。また、二人を巡る悪役たちの濃い演技にも注目。


【外国映画】
1位「シェイプ・オブ・ウォーター」
ヴェネチア映画祭とアカデミー賞で作品賞を受賞。クリーチャーが主人公の作品で高い評価を得たのは「E.T」以来か。全く新しい形の大人のファンタジー。

2位「ボヘミアン・ラプソディ」
並みいる正月映画を蹴飛ばして興行収入を伸ばしている快作。何と言ってもその歌声がフレディ・マーキュリー本人というのがいい。そしてヴェールに包まれていた真実が明かされ、当時のクイーンの演奏で味わった以上の感動をもたらす。これぞ映画だ!!

3位「スリー・ビルボード」(Three Billboards Outside Ebbing ,Missouri マーティン・マクドナー 2017年英=米)
フランシス・マクドーマンドの存在感が半端ない!名もない田舎町の母親の格闘劇に、自分も手助けしたくなってしまう。

4位「1987、ある闘いの真実」
一人の大学生の死が人々の心に火をつける。国民が国と戦った韓国民主化闘争を描いた衝撃の実話。こんなことを映画に描ける韓国って、ある意味凄い国だと思う。日本ではこんなに直球では描けないのでは・・・。

5位「リメンバー・ミー」(Coco リー・アンクリッチ 2017年アメリカ)
メキシコ最大のお奉り「死者の日」(日本で言うとお盆)にちなんだエピソードが感動を呼ぶディズニーアニメ。今この世で楽しく生きていられるのもご先祖様のおかげ。忘れることなく、大切にしなくっちゃね。

6位「タクシー運転手~約束は海を越えて~」(택시운전사 チャン・フン 2017年韓国)
光州事件勃発の様子を取材に来たドイツ人記者を乗せ、現地に向かうタクシー。ユーモアも交えて描く道中劇は実在の人物の登場で感動へと昇華。

7位「クワィエット・プレイス」(A Quiet Place ジョン・クラシンスキー 2018年アメリカ)
生きていくためには、決して音を立ててはならない。でもどうしても起きてしまうことも・・・。静寂と恐怖の中で深まる家族の絆を描いた、緊張感みなぎる佳作。

8位「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(The Post スティーヴン・スピルバーグ 2017年米=英)
アメリカの憲法と自由を守るべく、自分が正しいと信じる行いを全うしたジャーナリストたち。社会派スピルバーグが得意とする問題作。

9位「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(ฉลาดเกมส์โกง ナタウット・プーンピリヤ 2017年タイ)
タイ映画を久しぶりに見る。何とスタイリッシュで、かっこいい作品に仕上がっていることか。タイの学歴社会もかいま見えて、世の中進んでいるんだなあと実感。

10位「ハッピーエンド」(Happy End ミヒャエル・ハネケ 2017年仏=墺=独ほか)
何とパンフレットはスマホ型。見終わったあと、現代に生きるために本当に必要なものは何か、そして幸せとは何か、ふっと考えさせられる。



◆kenya
【日本映画】
1位「日日是好日」
黒木華のラストのセリフにすべてが凝縮されている映画。人が少しずつ成長していく過程を、四季折々の風景と合わせて丁寧に描かれていた。とても前向きになれる。

2位「羊の木」(吉田大八)
人にはそれぞれ生きていく領域がある。6人の様々な経験を経た人間が、同時期に同じ場所で交錯する。映画ならではの醍醐味で楽しめた。

3位「万引き家族」
祝!是枝裕和監督。カンヌ映画祭でのパルムドール受賞。“本物”の家族とは何か。血の繋がりとは何か。重いテーマを商業ベースに乗せる技術は、素晴らしい。子役の演出力の引き出し方も素晴らしいと思う。

4位「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」
シリーズ三作目。山田洋二監督の定番のネタを上級ドラマに仕上げる技には感服。安定感があり、安心して観られた。

5位「コーヒーが冷めないうちに」(塚原あゆ子)
これぞ「ハートウォーミング」であった。水槽のイメージも印象に残った。また、薬師丸ひろ子が良かった。「映画女優」って感じ。そのエピソードだけで1本の作品で出来るかも。

6位「スマホを落としただけなのに」(中田秀夫)
スマホがあれば何事も解決してしまうように錯覚してしまう今の時代だからこそ出来る映画かもしれない。人と人との繋がりとは何なのか。

7位「空飛ぶタイヤ」
超豪華俳優が出演するエンターテイメント。やはり、映画がこうでなくては。もう少し、長尺でも良いので、一つひとつのテーマをじっくり描くと、更に、良くなったかも。惜しい。

8位「嘘を愛する女」(中江和仁)
「TSUTAYA」企画から映画化された、新風のサスペンス仕立ての恋愛映画という表現が一番相応しいだろうか。監督の次回作に期待。

9位「嘘八百」(武正晴)
何事にも、真面目に真剣に取り組む人間は美しい。そして、明るい。それが、仮に、人生の折り返し地点を回っていたとしても。配役がうまくハマった。

10位「孤狼の血」
役所広司の無茶苦茶な捜査に呆気に取られた。ただ、その中でも、新人への愛情は忘れていなかった。実は、人の奥底にある素直な部分だけで生きているのか?今の社会にストレスを抱えていたのだろう。


【外国映画】
1位「デトロイト」(Detroit キャサリン・ビグロー 2017年アメリカ)
キャサリン・ビグロー監督の力強い演出に感心した。タイムリーでセンシティブな人種問題を、ドキュメンタリー風に描くことで、直接的に観客に訴える。男には出来ない?男勝りではなく、真の男?終始、圧倒され続けて、上映時間を短く感じた。

2位「スリー・ビルボード」
かなり横暴な人間が徐々に変わっていく、寄り添う様を、じっくりと捉えていて、観終わった後、心が暖まる感じがした。

3位「ビガイルド/欲望のめざめ」(The Beguiled ソフィア・コッポラ 2017年アメリカ)
南北戦争時の、女性同士の恐ろしい戦いを描く。ただ、実際の戦争ではなく、一つ屋根の元で起こる戦いである。ソフィア・コッポラらしい映画だと感じた。日本語タイトルの工夫と、ソフィア・コッポラの名前をもっと前面に押し出した宣伝をすれば、もっと観客が増えたように思う。

4位「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」(I, Tonya クレイグ・ギレスピー 2017年アメリカ)
ナンシー・キャラガン襲撃事件を題材に、ドキュメンタリー風に勢いよく、力強く、しかも、計算しつくされた映像だった。不器用に、そして、愚直に生きた人々。白黒に分けられない人生。真実は本人しか分からない(本人も分からなくなっているかも)編集がうまい。

5位「ファントム・スレッド」(Phantom Thread ポール・トーマス・アンダーソン 2017年米=英)
うら若き女性が、自身の親くらいの気難しい大人の男性の懐に入り込む究極の偏愛映画である。ダニエル・デイ・ルイス演じる主人公の姉役を演じたレスリー・マンヴィルが特に素晴らしかった。アカデミー助演女優賞候補(受賞には至らず残念)に納得。

6位「オーシャンズ8」(Ocean‛s Eight ゲイリー・ロス 2018年アメリカ)
オーシャンズシリーズの女性版である。分かり易い設定と勢いで単純に楽しめた。アン・ハサウェイが良かった。このシリーズはワクワクさせてくれる。

7位「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(Mission:Impossible-Fallout クリストファー・マッカリー 2018年米=中=仏ほか)
アクション以外の部分で、人間味が感じられるイーサン・ホークに驚いた。このシリーズが成熟していたからなのか。次回作も楽しみ。

8位「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
終始、隙が全く無い演出で、「スピルバーグ劇場」ともいうべき映画だった。これが短期間で仕上げられるのも感心する。

9位「ゲティ家の身代金」(All the Money in the World リドリー・スコット2017年 米=伊=英)
ケヴィン・スペイシーがセクハラ問題で降板したことにより、クリストファー・プラマーに交代し、短期間で再撮影し完成した映画。映画の中身もさることながら、セクハラ問題と短期間での撮影技術等、今を象徴する映画だと感じた。

10位「シェイプ・オブ・ウォーター」
主人公の相手の生き物がかなりグロテスクなので、B級怪獣映画をベースに、恋愛という要素で包んだような映画。終始、懐かしい雰囲気が漂っていた。



◇アロママ
【日本映画】絶対的なベスト3が実はなかった。樹木希林さん、大杉漣さんなどを喪った淋しさを覚える。
1位「日日是好日」
日本の良さを静かに伝えてくれる。ちょっと背筋が伸びてくる。

2位「モリのいる場所」(沖田修一)
昔から山崎努のファン。樹木希林が一番彼女らしい作品だったか。

3位「散り椿」(木村大作)
映像と殺陣の美しさ、黒木華がよかった。時代劇が少なくなってしまった。

4位「羊と鋼の森」
三浦友和のこれぞ大人のありよう。森永悠希の演技が良かった。

5位「万引き家族」
いろんな意味で問題作!家族って何だろうと大きな問いかけに応えきれない。

6位「空飛ぶタイヤ」
男くささ満載!こういう骨太で社会派の作品て、実は好き!

7位「かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発」(吉田康弘)
有村架純の応援目的。これも家族のありようを問う。國村隼のいぶし銀の姿にしびれる。

8位「教誨師」(佐向大)
大杉漣さんの初プロデュースにして遺作。オーム真理教の処刑のあった年に、死刑制度についてあれこれ思う。ひたすらしんどかったけど。

9位「友罪」
瑛太の狂気溢れる演技と、犯罪加害者家族の重さに打ちのめされる。

10位「銀魂2 掟は破るためにこそある」(福田雄一)
2作目は不作のジンクスを破って、よくぞここまでパロディに徹した!というのと、気配を消し去って新しい役柄になり切ってる若手俳優にちょっと拍手!肩の力を抜ける、わたしには珍しい選択。


【外国映画】女性の生き方と社会派、それから熟年層の活躍に関心がいったベスト10を選んだ。かなり個人的趣味を優先。興行収入だけでははかれないものを見つけていきたい。とはいえ、田舎暮らしではなかなか名作に巡り合えないのが哀しい。
1位「女と男の観覧車」(Wonder Wheel ウッディ・アレン 2017年アメリカ)
好きな女優、ケイト・ウィンスレットの憑依型の演技にのみ込まれた。

2位「あなたの旅立ち、綴ります」(The Last Word マーク・ペリントン 2017年アメリカ)
これもシャーリー・マクレーンのカッコよさに惹かれて。

3位「マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー」(Mamma Mia! Here We Go Again オル・パーカー 2018年英=米)
音楽と風景の美しさ、突っ込みどころはあるものの、3人の女優の競演はすばらしい。ともかく、楽しかったし、ほろりときた。

4位「ボヘミアン・ラプソディ」
クイーンを十分に知らなかったけれど、音楽の素晴らしさが伝わる。

5位「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
メリルストリープの存在感と報道の力の大きさが素晴らしい。

6位「輝ける人生」(Finding Your Feet リチャード・ロンクレイン 2017年イギリス)
老年期にさしかかっても、まだまだ元気に生きられる!ハリポタの悪役女優イメルダ・スタウンがとてもチャーミング。

7位「1987、ある闘いの真実」
韓流映画はずっと敬遠してきたけど、こういう作品をもっと知りたい。「タクシードライバー」を見過ごしたのが残念。

8位「スターリンの葬送狂騒曲」(The Death of Stalin アーマンド・イアヌッチ 2017年英=仏ほか)
かなりのブラックユーモア。旧ソ連の一面を知る。

9位「アリー/スター誕生」(A Star Is Born ブラッドリー・クーパー 2018年アメリカ)
1976年版のバーブラ・ストライサンド主演が一番好きだが、さすがのレディ・ガガ。監督主演のブラッドリー・クーパーの歌も魅力的。

10位「オンネリとアンネリのおうち」(Onneli ja Anneli サーラ・カンテル 2014年フィンランド)
原作童話は有名らしいが、映画は意外に知られてなかったようす。北欧の暮らしを垣間見えた。続編が公開されているので、ご注目。



◆KOICHI
【日本映画】鑑賞本数が少ないために6本しか選べませんでした。
1位「寝ても覚めても」
姿を消した麦(ばく)が再び現れるのではないかと不安が、この物語を引っ張っている。不安がピークに達したときに麦は現れ、亮平の見ている前で朝子を連れ去ってしまう。まるでサスペンス映画のような展開。戻ってきた朝子を亮平は罵倒するが、わだかまりを抱きつつも愛さずにはいられない。愛の不安と苦しみという恋愛の本質的な問題に切り込んだ作品。

2位「万引き家族」
家族の愛に恵まれない者たちが集まって疑似家族を作り、祖母の年金と万引きによって生計を立てていく。本当の家族の絆は壊れている。かといって疑似家族の絆が万全というわけでもない。「本当の家族の絆は壊れていても疑似家族の絆は強い」という安易な結論にもっていかなかったところがよい。

3位「カメラを止めるな!」
ハリウッドのミュージカルによくあるバックステージものを発展させた作品。ゾンビ映画の撮影現場を舞台にして、トラブルを乗り越えて撮影が終了するまでの過程をコミカルに描いている。作品は4つの部分に分かれている。
① ノーカットのゾンビ映画「ONE CUT OF THE DEAD」(37分)
② ①のプリプロダクション(創作)
③ ①の撮影現場(創作)
④ ①の撮影現場(本物)。エンドロール。
上記の②と③は①のゾンビ映画の本当のプリプロダクションと撮影現場ではなく、本物に似せた舞台裏で、この作品のメインストーリーになっている。撮影前と撮影中のドタバタが描かれていて、①②で張られた伏線が③できちんと回収されている。撮影時のトラブルに本物と創作の両方があり、どちらもうまく作品の中に取り込んでいる。興味深いのはエンドロールで、①の本当のメーキング映像を流していること。私はこの部分が一番面白い。本当の舞台裏を最後に見せることによって、ドキュメンタリー的な面白さを作品に付与している。

4位「止められるか、俺たちを」
1970年前後の若松プロダクションを舞台にした青春映画。若者が最も熱かった時代を歴史の1ページでも見るように客観的に冷静に見ている。時代に感情移入することなく、若松孝二をはじめとする登場人物の人間模様を面白おかしく、時には哀しく切なく描いている。あの時代の熱気をあのまま現在に再現しようとしたなら、果てしない混沌に陥ってしまっただろう。70年代と距離を保てたことが、この映画の成功につながっている。

5位「きみの鳥はうたえる」(三宅唱)
原作は佐藤泰志の同名小説。主人公の「僕」はアルバイト先の書店で出会った佐知子と恋愛関係になり、ルームメイトの静雄に紹介する。佐知子が静雄の恋人になっても、「僕」は佐知子を通して静雄を感じ、静雄を通して佐知子を感じることができると喜んでいる。「僕」の不可解でとらどころのない生き方がこの作品の魅力であり、また最大の謎でもある。将来に希望を見いだせない若者の虚無的で刹那的な生き方がよく描けている。ラストが原作と大きく違うのが残念。

6位「空飛ぶタイヤ」
タイヤ脱落事故を起こした運送会社の社長赤松は、企業から提示された1億円を受け取らず、真相解明のために全国を走り回る。内部告発する大企業の社員、不正を疑う銀行の調査員やジャーナリスト、同種のタイヤ事故を起こした運送会社の社員等々の協力を得て、真相が明らかになっていくプロセスがこの作品の醍醐味。


【外国映画】
1位「女と男の観覧車」
主人公のジーンは一見破滅型の女に見えるが、ギリギリのところで理性を保っている。ここがこの作品のつまらないところでもあり、また奥深いところでもある。同じ監督の「ブルージャスミン」では女主人公は完全に正気を失い、破滅の道に一直線に進んでいった。ジーンは若い男に捨てられても狂気には至らない。子供がいて、甲斐性はないが自分を愛してくれている夫がいて、安月給だがウェイトレスの仕事がある。この微妙な立ち位置の女をケイト・ウィンスレットが見事に演じている。ただ子供の放火癖だけは不気味だ。

2位「女は二度決断する」(Aus dem Nichts ファテイ・アキン 2017年独=仏)
夫と子供をネオナチのテロによって失った妻の復讐を描いた映画。犯人をおよそテロリストらしくない若い男女にしたのは、ネオナチへの報復よりも、主人公の精神の崩壊をテーマにしたかったからではないか。壊れゆく女の心理がサスペンス調の映像でスリリングに描かれている。

3位「ロープ/戦場の生命線」(A Perfect Day フェルナンド・レオン・デ・アラノア 2015年スペイン)
「何をやってもうまくいかない」とラストでフランス人の女性がため息まじりにつぶやく台詞が原題になっている。危険な紛争地域で、泥まみれ糞尿まみれになりながら、住民の水と衛生を守る仕事に携わる活動家を描いた作品。人間生活の根幹に関わるとても大事な仕事を殊更に意義を強調することもなく、功績を称えることもなく、淡々と描いているのがいい。

4位「判決、ふたつの希望」(L'insulte ジアド・ドゥエイリ 2017年仏=レバノンほか)
民族、宗教、難民・・・という複雑な問題を抱える中東。イスラエルとパレスチナ間だけではなく、その他の民族や宗教の間にも解決されない多くの問題が横たわっている。レバノン人のトニーとパレスチナ難民のヤーセルは些細なことから口論になり、トニーが放った民族を侮蔑する発言に激高したヤーセルはトニーを殴ってしまう。トニーは提訴し、裁判はメディアに取り上げられ、国を揺るがす事態に発展していく。裁判の過程でレバノン人のキリスト教徒とパレスチナ難民の間にも虐殺の歴史があったことが明らかになっていく。トニーは幼少期にパレスチナ難民に迫害された体験があったのだ。やがてトニーとヤーセルは和解するが、裁判は個人間の争いの枠を超えて広がっていった。判決の時がきた。裁判官は「民族や宗教を侮蔑する暴言は暴力と同じである」という趣旨の発言をしている。憎しみの連鎖を断ち切る手段として、「過ちを裁かずに受け入れること(赦し)」の重要性をこの映画は伝えたかったのではないか。また「個人間の友情を育むこと」が、民族や宗教の相違を乗り越える契機であることを示唆している。裁判に負けた方が勝った方より大喜びしていたラストが印象的であった。

5位「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
映画の舞台が権力と最前線で闘うニューヨークタイムズではなく、二番手のワシントンポストであることがこの作品の特徴を物語っている。権力vsジャーナリズムの闘いがスリリングに描かれていると同時に、経営者であるキャサリンの苦悩と決断が感動的に描写されている。

6位「悲しみに、こんにちは」(Estiu 1993 カルラ・シモン 2017年スペイン)
両親が亡くなり叔父のもとに引き取られたフリダ(6歳)という少女のひと夏の物語。フリダは叔父家族に溶け込めず、母の死を受容することもできない。叔母から母の最期の様子を聞いて初めて母がもう戻って来ないことを認識する。ようやく叔父家族との距離を縮められたフリダは、自分の居場所を見つけられた安心感と母の死を知った悲しみのために号泣する。

7位「ハッピーエンド」
母親を毒殺した少女が、祖父の自殺を幇助しようとするラストシーン。少女の父や伯母が祖父を助けにいくところで映画は終わる。祖父は死んだのか、救出されたのか、結論は観客の想像に委ねられる。あのまま祖父が誰にも気づかれずに大海の藻屑と消えたなら、絶望的なラストであったろうが、そうはならずに一抹の希望と可能性を残した作品になった。原題のHappy Endは必ずしも皮肉ではない。この家族の絆は皮一枚のところでつながっている。

8位「ビューティフル・デイ」(You Were Never Really Here リン・ラムジー 2017年英=仏=米)
この作品は男が少女を悪の巣窟から救出する映画というよりも、少女がトラウマに苦しむ男に寄り添う映画。少女と男の関係は「シベールの日曜日」(62) に似ている。あの映画は悲劇的な終わり方をしたが、この作品はハッピーエンドとは言えないまでも、ある種の希望を感じさせる。

9位「ファントム・スレッド」
レイノルズにはこれまで何人も恋人がいたが、みんな彼の自己中心主義に音を上げて去って行った。アルマだけがめげずに最後までがちんこで闘った。都会派の気むずかしい独身主義者が、田舎娘の愛の熱量に圧倒され、打ちのめされて、屈服した・・そんなラブストーリーである。

10位「ザ・スクエア」(The Square リューベン・オストルンド 2017年スウェーデン=独=仏=デンマーク)
貧困層への偏見と階層間の断絶を描いた作品。現代美術に対するスノビズムや障害者に対する先入観をアイロニカルな視点でとらえている。音や台詞によって恐怖感を与える手法、説明的ではない語り口はミヒャエル・ハネケを連想させる。



◆健
【日本映画】
1位「菊とギロチン」(瀬々敬久)
関東大震災を境にして大正デモクラシーが徐々に空洞化し、やがてファシズムと軍靴の音に移り行く時代を描いて峻烈だ。「最低。」「友罪」もいいが、この1本に。

2位「万引き家族」
この映画を国辱だとする批判を聞いて「菊とギロチン」の時代が到来するような嫌な予感がした。

3位「止められるか、俺たちを」
疾走するように駆け抜けていった鬼才の半生を寄り添うように撮る白石監督の眼差しがやさしい。無名に終わるところだった女性助監督への鎮魂歌でもある。

4位「寝ても覚めても」
2018年大活躍の東出昌大が標準語と大阪弁で二役を演じる工夫もおもしろいが、その大阪弁が夢かうつつかの夢物語にリアリティを与えて大いに笑わせた。

5位「日日是好日」
茶道という日本文化のきわみ、ゆっくりとした時間の流れ、洗練された無駄のない所作。それを見ているだけでうっとりさせられる。大森監督がひと皮むけた秀作である。

6位「リバーズ・エッジ」(行定勲)
いじめられっ子でゲイの同級生男子を庇護する姉御ぶり。その女子高生を溌剌と演じる二階堂ふみがカッコいい。既成の価値観を吹っ飛ばすような青春映画の快作である。

7位「斬、」(塚本晋也)
幕末。農村に居候しながら密かに仕官を志す若い浪人。そこへ倒幕への野心を滾らせる浪士が京に上る道すがら腕の立つ同志を探していて、この浪人と出会う。淡々とスタティックな調子から閃光のごときダイナミックな殺陣まで、張り詰めた空気が漂う。

8位「鈴木家の嘘」(野尻克己)
ひきこもりの長男の自殺を昏睡から奇跡的に目覚めた母親にひた隠す一家。極めてブラックでいて切実なテーマをサラッと笑い飛ばしながら描く力量に感心した。

9位「妻は薔薇のように 家族はつらいよⅢ」
このシリーズは法華の太鼓だ。現役最長老の巨匠は肩肘張らず自然体で笑いのツボを心得た手法によって現代の風俗を風刺的に描く。そうして大いに笑った。

10位「カメラを止めるな!」
決してうまい映画ではない。着想の勝利というか、まんまとやられた感で観客は満足するが、このアイデアはそうそう使えない。次作が大変だと同情してしまう。


【外国映画】
1位「スリー・ビルボード」
娘を惨殺された母親が犯人を検挙できない警察に苛立ち、自らの手で裁こうと行動に出る。被害者遺族の思い込みが冤罪を生むという現実をつき、人間の本質を抉り出した。

2位「1987、ある闘いの真実」
韓国の民主化に至る道は険しく、棚ぼたのように民主憲法を頂いた我々の想像を遥かに超える闘いがあった。怒りを忘れた日本人こそ見るべき作品だ。

3位「アリー/スター誕生」
ガガの渾身の演技と歌唱、クーパーの持てる才能を最大限に発揮した演出、これは奇跡の秀作だ。リメイク三作目のバーブラ・ストライサンドを意識したのだろうが、ガガのほうがずっと美人である!

4位「運命は踊る」(פוֹקְסטְרוֹט‎ サミュエル・マオズ 2017年イスラエル=独ほか)
息子が戦死したという誤報を受け怒り狂った父親が、軍の上層部に手を回して帰還させる。息子はその帰途に事故死する。父は茫然自失、母は悲嘆に暮れ家庭は崩壊。国境でフォックストロットを踊る警備兵の場面にゾクゾクさせられた。

5位「シェイプ・オブ・ウォーター」
性愛は人間同士の異性間においてのみ正当に成立するという古い倫理観を嘲笑うかのようなこの映画。多様性の肯定に賛同し、物語の展開は爽快だった。

6位「30年後の同窓会」(Last Flag Flying リチャード・リンクレイター 2017年アメリカ)
それぞれに脛に傷持つ帰還兵が戦死した戦友の弔問を決意し遺族に真実を話して開放されようとするが・・・ユーモアと哀切と皮肉。戦争の傷痕は深い。

7位「スターリンの葬送狂騒曲」
独裁者の頓死で恐怖政治の終焉かと思いきや、新たな権力闘争が始まり、道化者のフルシチョフがいつのまにか主導権をとって狡猾なベリヤを陥れる恐さ。黒い笑劇のケッサクだ。

8位「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(The Florida Project ジョン・ベイカー 2017年アメリカ)
陽光溢れるフロリダの安モーテルに悪戯好きの幼い娘を抱える売春婦が住み、管理人も手を焼いている。この管理人(ウィレム・デフォー)が時には厳しく、時には暖かな目でかれらを見守る姿が素敵だ。

9位「SEARCH/サーチ」(Searching アニーシュ・チャガンティ 2018年アメリカ)
全編パソコンとスマホの画面で構成された特異な作品。妻を病気で亡くした主人公は高校生の愛娘とふたり暮らし。その娘がある日消息を絶つ。警察の捜査と平行して父親は独自に手がかりを探す。そうして意外な結末。

10位「ウィンド・リバー」(Wind River テイラー・シェリダン 2017年アメリカ)
ネイティブ・アメリカンの妻を亡くした白人の男がネイティブの若い女の変死事件を白人女性捜査官と追う。保守的な中西部の山あいに残る差別と偏見に立ち向かう姿が凛々しい。


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