商店街に出ると、振袖の女の子が目に飛び込んできた。
ひとりや二人ではない。
ん! 卒業式には早いし、結婚式にしては、こんな小さな町でお客が多すぎる?
ようやく「成人の日」と気がついた。
「おめでとう。これからが人生の本番だね」と、
ポンとお太鼓の帯でも叩いてあげたくなった。けど。
「ハイ。ポーズ!」とカメラを向けるのも、今どき風ではない。
「腹減ったなあ」と声がする。
男の子が、女の子と頭をくっつけ合わせながら歩いている。
そうだよね。成人も腹は減る。
ずいぶん昔、「お祝い何が欲しい」と尋ねたことがあった。
多分、金っていうだろうと、少しだけ封筒に用意していた。
すると言ったのだ。
「宝」
「えっ」
「宝だよ」
「宝くじ?」
「ばかだなあ。宝物だよ」
「宝物って、あの指輪とかダイヤモンドとか?」
「ヤンなるなあ。自分にとって大事なもの。ずーっと抱きしめていられるもの」
あまりに、古典的な答えにびっくりして、口を開けたままだった。
「だから、それ、何なのよ」
「何なのかよくわかんないんだ。だから、宝物」
◎ ● 〇 ◎
けっきょく、お金でカタをつけちゃった。
夢がない大人として、仕方のない選択だった。
後で、「ありがとう。頑張るね」と当たり障りのないメールが来た。
まあ、あの額なら、宝は買えないよねと、こっちがなっとくした。
★ ★★ ★ ★
でも、いまなら、ちょっと聖書なんかひっくり返して、
カードにみことばを書いて、
あなたの宝のあるところに
あなたの心もある。 (マタイの福音書6章21節)
きみは宝物をどこへ蓄えるかな?
と、聞いてみるんだけど、当時は、
私が、聖書を知らなかった。
「