花って冷たいのね。
いま、初めて気がついたように友人が言うのです。
ダリヤ園の中です。
こんなにきつい日差しでも、だから、日焼けしないのね。
葉っぱも冷たいよ。
私は、葉っぱを指でゆっくり撫でながら言います。
ほんと、どうして、こんなに強い日差しの中で、ひんやりしていられるのかしら。
★★ ★★ ★
忘れがたい場面があります。
映画「ラストエンペラー」の中で、清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀 の
皇后・婉容がバーティの広間に飾られているカトレアの花を食べるのです。
溥儀は、すでに清朝皇帝の地位を失い、日本軍による傀儡政府・満州国の皇帝に、据えられていました。
溥儀の不安定で複雑な運命に従う皇后・ 婉容は、皇帝よりも
もっと孤独な女の葛藤の中を生きていました。
(どうやら)ホモセクシャルである夫とは夫婦関係はなく、彼女は美しいお飾りでした。
他方、溥儀の弟・溥傑は、侯爵嵯峨実勝の娘・浩と結婚し、パーティの席に、
臨月腹の妻を伴って現れます。
婉容は弟嫁を見つめながら、溥儀につぶやくのです。
「あたしたちも子供が欲しいわ」
それから、そばのカトレアの花をちぎって、食べ始めるのです。
むしゃむしゃと、まるでサラダのなかのクレソンをつまみ上げて、口に放り込むように。
★ ★★★ ★
確かに、胸が燃えそうなとき、冷たい花びらは、気持ちを静めるのかもしれない。
高価なカトレアの花をむしりとることなど、私にはできないけれど、
清朝最後の皇帝の夫人とはいっても、婉容さんは、皇后だったのです。
と、今ごろ、納得なのです。