猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

わらの犬

2020-04-07 23:31:45 | 日記
1971年のアメリカ映画「わらの犬」。

数学者のデイヴィッド・サムナー(ダスティン・ホフマン)と妻エイミー(スーザン・
ジョージ)は物騒な都会生活から逃れるため、アメリカから妻の故郷であるイギリ
スのコーンウォール州の片田舎に引っ越してきた。だが、夫妻はたちまち村人たち
の目をひき、若者たちから嘲笑を浴び、嫌がらせを受けることになる。彼らにひと
こと言うようにエイミーからけしかけられても、気弱なデイヴィッドは取り合おう
としない。ある日、精神薄弱者のヘンリー(デイヴィッド・ワーナー)を家に匿った
ことから、彼をリンチにかけようとする若者たちの総攻撃を受ける。

イギリスの作家ゴードン・M・ウィリアムズの小説「トレンチャー農場の包囲」を
サム・ペキンパー監督が映画化したバイオレンス映画である。数学者のデイヴィッ
ドと妻エイミーは、アメリカからエイミーの故郷であるイギリスの田舎の村に引っ
越してきた。デイヴィッドはのどかな環境で数学の研究に没頭したいと考えていた。
しかし夫妻は村の若者たちの注目の的になり、嫌がらせを受けるようになる。平和
主義で争いを好まない性格のデイヴィッドは極力彼らに関わらないようにしていた
が、エイミーは彼らに何も言えないデイヴィッドを臆病者だと思い、不満を抱えて
いた。
冒頭からこの夫婦には不穏な空気が漂っている。真面目でおとなしい夫に幼稚で頭
の悪そうな妻。エイミーはセクシーで無防備だが、そんな態度が後に不幸な事件を
引き起こすことになる。デイヴィッドは学者なのにどうしてこんなバカっぽい女性
と結婚したのかな、と思った。夫婦は家の周りの工事を数人の男たちに依頼するが、
彼らは真面目に仕事をせず、工事は一向に進まないため、夫婦はイライラが募る。
ある日エイミーがかわいがっている飼い猫が殺される事件が起きる。デイヴィッド
には犯人の目星はついていたが、それでも何も言えない。彼は争いを好まないと言
っているが、気弱なだけなのだ。
そんな日々が続くが、ある日状況は一変する。ある理由から若者たちに追われてい
たヘンリーという精神薄弱者をデイヴィッドが家に匿うことになった。デイヴィッ
ドは若者たちから攻撃を受け、エイミーはヘンリーを若者たちに引き渡すように言
うが、ヘンリーが彼らに殺されてしまうだろうと思ったデイヴィッドは渡さない。
窓ガラスを割られ、家の中を滅茶苦茶にされたデイヴィッドの心の中で何かが動い
た。それからは暴力対暴力の応酬である。
終盤のバイオレンス描写はすごい。乱暴で粗野な男たちにデイヴィッドも負けては
いない。きっと誰もがデイヴィッドになる可能性があるのだろうと思った。何かの
きっかけで人は変わるのだ。ラストで割れた眼鏡をかけたデイヴィッドが不気味で
ある。もう以前の生活には戻れないのだ。ダスティン・ホフマンが30代の時の映
画だが、さすがの演技力である。ただのバイオレンス映画ではない、考えさせられ
る物語だった。


私と一緒に寝ているノエル。ノエルの後ろに見えている黒いものは私の頭です(笑)

コメント (2)
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ハウス・ジャック・ビルト

2020-04-02 22:01:08 | 日記
2018年のデンマーク・フランス・ドイツ・スウェーデン合作映画「ハウス・ジャック・
ビルト」。

1970代のワシントン州。建築家志望の独身技師ジャック(マット・ディロン)が車で人
けのない雪道を通りかかると、女性(ユマ・サーマン)が車が故障したと助けを求めてく
る。ジャックは彼女を車に乗せ修理工場まで送るが、彼女は無神経で挑発的な発言を繰
り返し、ジャックは彼女に怒りを募らせる。そしてついに彼女を殺害し、それをきっか
けにジャックはアートを創作するかの様に殺人を繰り返すようになり、理想とする「ジ
ャックの家」を建てようとする。

ラース・フォン・トリアー監督のサイコ・スリラー映画。建築家を夢見る技師ジャック
の、12年に亘る殺人の軌跡を5つのエピソードによって描いている。強迫性障害を持つ
ジャックは、自分の理想とする家を作りたいと思っていた。ジャックが連続殺人犯にな
るきっかけは、雪道で車が故障し立ち往生していた女性を助けたことだった。この女性、
困っているところを助けてもらったというのに非常に不躾で嫌な発言をジャックに浴び
せるのだ。これではジャックでなくても頭に来るだろう。とうとうジャックは彼女を殺
害するが、殺されてもあまりかわいそうだと思えないタイプの人だ。これ以降ジャック
は殺人に没頭するようになる。
物語はしばしば登場するヴァージ(ブルーノ・ガンツ)という謎の老人とジャックの対話
によって進行していく。ジャックはヴァージに自分の殺人哲学を語り、殺人をアートだ
と捉えるジャックをヴァージは非難する。この老人が何者なのかはわからない。そして
ヴァージとの対話を続けながらジャックは次々と殺人を重ねていく。その手段はとても
おぞましいものである。グロテスクな描写が多いが、どこかコミカルでもある、変わっ
た映画だ。
ジャック役のマット・ディロンは若い頃はアイドル俳優のイメージが強かったが、やは
り実力派だ。無表情で人を殺したり、強迫性障害なので被害者の家に何度も戻ったりと
いう演技は真に迫っている。ジャックは次第に理想の家を作り上げていくが、あれがジ
ャックの夢見た家だったのだろうか。その理想はどこから芽生えたのだろうか。終盤赤
いマントを着たジャックと、ヴァージが一緒に歩いていくシーンは詩的な感じがする。
グロテスクかつ詩的な映画で、トリアーらしいと思った。


良かったらこちらもどうぞ。ラース・フォン・トリアー監督作品です。
アンチクライスト
メランコリア
ニンフォマニアック Vol.1
ニンフォマニアック Vol.2




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