猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

神々のたそがれ

2019-01-11 21:03:12 | 日記
2013年のロシア映画「神々のたそがれ」。

地球から遠く離れた惑星。そこに位置する王国の都市アルカナル。地球から800年
ほど遅れ、中世を思わせるこの地に、地球から科学者、歴史家などの調査団が派遣
された。しかし彼らが目にしたのは、権力を持った商人たちによる圧政、殺戮、知
的財産の抹殺であり、20年が経過しても文化発展の兆しは全く見られない。地球人
の1人、ドン・ルマータ(レオニード・ヤルモルニク)は、知識と力を持って現れた
神のごとき存在として惑星の人々から崇められていた。だが、政治に介入すること
は許されず、ただただ権力者たちによって繰り広げられる蛮行を傍観するのみであ
った。

アレクセイ・ゲルマン監督の遺作となったSF映画。舞台が中世のような場所なので
SFという感じはあまりしないのだが、地球以外の惑星の物語なのでSFなのだろう。
そこでは灰色隊という権力者たちによって書物は焼かれ、知識人たちは処刑される
日々が続いていた。知識人の処刑というとどこかの国を連想するが、その都市にお
いて神と崇拝される地球からの調査団の1人、ドン・ルマータにも、殺戮を止める
ことはできなかった。
全編モノクロームで暗く、とにかく画面が汚い。泥とぬかるみだらけで、何て汚い
都市だろうかと思う。そして人々の会話は脈絡がなく、何を話しているのかよくわ
からない。いやわからない訳ではないのだが、前後のつながりがあまりないので理
解するのに時間がかかる。人々の行動も同様で、何をしているのかよくわからない。
「神様はつらい」という原作小説があるようだが、小説もこんなに意味がわかりに
くい文章なのだろうか。それとも映画の演出なのか。
「21世紀最高傑作」と謳われているが、最高傑作とまでは思わないにしろすごい
映画だとは思う。一体何の映画を観ているのだろう、と思いながら177分間惹き込
まれて観てしまうのだ。そういう意味では本当にすごい、とんでもない映画だと思
う。どういう頭の構造をしていたらこういう映画が作れるのだろう。
アルカナルのような都市にいたら、そりゃ神様も辛いだろう。狂った人間ばかりな
のだから。ラストシーンでドン・ルマータが奏でる楽器の音色が印象的である。




ヒーターの風が1番当たる場所でくつろぐノエルさん。





猫は箱に入るのが好き。











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たたり

2019-01-07 23:31:58 | 日記
1963年のアメリカ映画「たたり」。

ニューイングランドの人里離れた場所に、大きな館がぽつんと建っていた。人々は
「丘の家」と呼んでいるが、いまわしい噂があり長い間誰も住んではいなかった。
人類学教授ジョン・マークウェイ博士(リチャード・ジョンソン)は奇怪な幽霊屋敷
こそ、心霊研究に適していると考えた。博士はこの心霊調査のため、10歳の頃不思
議な体験をしたというエレノア(ジュリー・ハリス)と、超感覚的な優れた感受性に
恵まれたセオドーラ(クレア・ブルーム)という2人の女性と、ルーク(ラス・タンブ
リン)という男性を助手として選んだ。グループがこの屋敷で顔を合わせた最初の
夜、女性たちを怪奇現象の恐怖が脅かした。だがエレノアはその恐怖の中にも拒む
ことのできない魅力にとらわれた。

オカルト映画だが、昔の映画なので今時の映画のような怖さはない。だが登場人物
たちの表情やカメラワークで恐怖を演出しているのは秀逸だと思った。いわくつき
の屋敷に心霊研究のために泊まり込んだ人類学教授と助手たち。最初の夜から女性
たちは恐怖を体験する。不審な大きな物音、歪んで勝手に開こうとするドア。幽霊
の姿は一切現れず、物音や気配だけで心霊現象を表現しているのはすごいと思う。
そしてエレノアの性格のうっとうしさ。エレノア役のジュリー・ハリスはあまり美
人ではないが、だからこそこの役に合っていたのだと思う。彼女がセオドーラ役の
クレア・ブルームのような美女だったら、この映画の雰囲気はまた違ったものにな
っただろう。
怖い思いをしながらも、何故か屋敷に魅入られていくエレノア。家が彼女を望み、
彼女も家に惹かれているのだ。でもその理由はわからない。博士に帰るように促さ
れても、拒むエレノア。逆らえない何かをこの家が持っているのだ。まさに「たた
り」である。1ヵ所ホラー映画らしく本当にびっくりするシーンがあった。ああい
うのは心臓に悪い。オーソドックスな幽霊屋敷ものだが、古い映画とは侮れない、
なかなかのおもしろさだった。




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嘘はフィクサーのはじまり

2019-01-03 21:05:09 | 日記
アメリカ・イスラエル合作映画「嘘はフィクサーのはじまり」を観にいった。

世界金融の中心地、ニューヨーク。その一端を牛耳るユダヤ人上流社会に食い込む
べく、しがない自称フィクサーのノーマン・オッペンハイマー(リチャード・ギア)
は小さな嘘を積み重ねて人脈を広げてきた。ある日講演のためにニューヨークを訪
れていたイスラエルのカリスマ政治家ミカ・エシェル(リオル・アシュケナージ)の
肩書きを利用することを思いつき、偶然を装って彼に近づく。テレビ映りを気にす
る若きカリスマはノーマンのお世辞と一流ブランドの革靴の贈り物に気を良くし、
私用の電話番号を教える。

ブラック・コメディと言われているがコメディではないと思う。ユダヤ系アメリカ
人のノーマンは口八丁で人脈を築いてきたが、詐欺師ではなく大ぼら吹きの山師の
ような人。いつもイヤホンを耳に、常に携帯電話で誰かと話している。とにかく人
を惹きつける嘘がうまい。今度のターゲットはイスラエルのカリスマ政治家エシェ
ル。うまく取り入るノーマン。そして3年後エシェルはイスラエル首相に大出世し、
ワシントンDCでの支援者パーティーに参加したノーマンを見つけ、感激して抱き
しめ、"ニューヨークのユダヤ人名誉大使"と人々に紹介する。一躍時の人となった
ノーマンは成功を確信する。
軽快でテンポのいいこの映画の最大の魅力は何と言ってもリチャード・ギアだろう。
リチャード・ギアはぱりっとしたスーツを着こなし、ハンサムでダンディ、そんな
イメージがあるが、この映画のノーマン役ではよれよれのコートに帽子、よれよれ
のショルダーバッグを斜め掛けして街中をうろうろする冴えない初老の男である。
そして冒頭からとてもうさんくさい。新しいリチャード・ギアの魅力を発見した感
じだ。
この映画を観るとアメリカとイスラエル人社会の複雑な結びつきがわかる。ノーマ
ンは成功したかに見えたが必ずしもそうではなかった。ノーマンは人を利用して成
り上がっていったと思っているが、実は人が彼を利用しているのである。それに気
づいていない。リチャード・ギアの演技がとてもいい。シャレた映画だが、ラスト
は悲しく切ない。




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