猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

偽りなき者

2013-03-21 02:22:16 | 日記
デンマーク映画「偽りなき者」を観にいった。
ルーカス(マッツ・ミケルセン)は42歳の幼稚園職員。学校で教師をしていたが学校が閉鎖され、
転職した。妻は離婚して、15歳の息子のマルクス(ラセ・フォーゲルストラム)と別の町で
暮らしている。
ルーカスはこの町で生まれ育ち、誠実な人柄で友達も多い。中でもテオ(トマス・ボー・ラー
セン)とは子供の頃からの大親友だ。
面倒見のいいルーカスは、幼稚園でも子供たちになつかれている。ある日テオの娘クララ
(アニカ・ヴィタコプ)が、ルーカスにプレゼントを渡し、唇にキスをした。
ルーカスは「プレゼントは男の子にあげなさい。それと唇へのキスはいけないよ」とやんわりと
たしなめたのだが、クララは自分が拒絶された気がして、傷ついた。そして、園長のグレテ
(スーセ・ウォルド)に、ルーカスから性的ないたずらをされたという作り話をしてしまった。
クララの話に信憑性があると感じたグレテは、調査員に依頼して調査をさせる。
クララは自分の言ったことを一旦は否定したが、調査員の誘導的な質問に、つい本当だと
言ってしまう。
グレテは保護者会を開き、ルーカスを性犯罪者であると話す。ルーカスは自宅待機となり、
グレテはルーカスを「変態!」と罵った。
ルーカスは町中の人々から変質者扱いされ、何を言っても信じてもらえない。テオでさえ、
「娘は嘘をついたことはない」と言ってルーカスを責めた。
ある日息子のマルクスが、ルーカスを心配して、母親に内緒でやってきた。
だがマルクスがスーパーで買い物をしていると、店長から「君もお父さんももう来ないでくれ」
と言われる。
マルクスが家の前に戻ると、ルーカスは警察に逮捕され連行されていった。家に入れなくなった
マルクスは、テオの家に合鍵をもらいに行くが、「もう預かってない」と言われる。
マルクスはクララに「何故嘘をつくんだ」と詰め寄るが、居合わせたテオの友人に殴られ、追い
出される。
マルクスは名付け親のブルーン(ラース・ランゼ)の家に行った。彼の家族だけはルーカスを信じ、
釈放のために動いてくれていた。
翌日ルーカスは釈放されたが、悪夢の日々は続く。家の窓ガラスに石を投げ込まれ、飼い犬を
殺され、スーパーで食料を買うのに激しく殴られた。
それでもルーカスは、教会のクリスマスのミサに出席する。白い目に囲まれながら。

重たい映画だった。子供が軽い気持ちでついた嘘が、1人の人間を破滅に追い込んでしまう怖さ。
観ていて、クララにもだが、園長のグレテに特に腹が立った。この人は「無垢な子供は嘘を
つかない」と信じている。バカじゃないのか、幼稚園の園長のくせに。
今までルーカスと仲良くしてきた町の人たちが、一斉にルーカスを変質者扱いする。彼の人柄を
考えれば、そんなことをするはずがない、と思う人はいなかったのか。
観ている側はルーカスが無実だとわかっているので、ルーカスやマルクスが非難されたり殴られ
たりするのがかわいそうで、辛くなる。
私はこの、ルーカスが町に住み続ける気持ちが理解できない。いくら生まれ育った土地で愛着が
あるとはいえ、たとえ皆と和解できたとしても、私だったらよそに引っ越す。
窓ガラスに石を投げ、犬を殺した誰かが住んでいるのだ。そんなことをされたら、仮に誤解が
解けたとしても、もうそこには住みたくない。グレテの顔も2度と見たくない。
ルーカスは潔白だという自信があったから、堂々と住んでいたかったのだろうか。町を出よう
とは思わなかったのか。
解決したと見えたラストも、怖い。1度染みついてしまった人の「悪意」は消えることなく
留まり続けるものなのだということを描いている傑作だった。


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