猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

冬薔薇(ふゆそうび)

2022-06-15 22:21:07 | 日記
2022年の日本映画「冬薔薇(ふゆそうび)」を観に行った。

横須賀の港町。専門学校へもろくに行かず、不良仲間とつるみながら、友人
や女から金をせびってダラダラと中途半端に生きる渡口淳(伊藤健太郎)。埋
め立て用の土砂を船で運ぶ海運業を営む彼の両親は、時代と共に減っていく
仕事や後継者不足に頭を悩ませながらも、何とか日々をやり過ごしていた。
淳はそんな両親の仕事に興味を示すこともなく、親子の会話もほとんどない
状態だった。ある日、淳の仲間が何者かに襲われる事件が起きるが、その犯
人として浮かび上がったのは、思いもよらない人物だった。

阪本順治監督による人間ドラマ。はっきり覚えていないが、私は阪本順治監
督の作品を観るのは初めてかもしれない。痛々しくも心に残る、そんな映画
だった。服飾関係の専門学校生の淳は、学校へほとんど通わず、不良たちと
一緒になって堕落した生活を送っている。両親は海運業を営んでいるが、母
の道子(余貴美子)とはたまに口をきくものの、父の義一(小林薫)とはほとん
ど会話はなかった。ある日淳はケンカをし、脚を大怪我して入院する。2ヵ
月後に退院して帰宅すると、失業した叔父(道子の弟)が義一に雇われ、息子
(淳のいとこ)と共に横須賀に来ていることを知る。淳は「何で俺に何も教え
てくれないんだよ」とふてくされる。
淳はだらしないところがあるが、悪い人間ではない。両親を嫌っている訳で
もない。不器用な生き方しかできないのだろう、と思う。いとこは中学校の
教師を辞め、早速塾講師の職を得ていた。「教師なんて安泰じゃん。何で辞
めたの」と聞くが、いとこは答えなかった。退院後も淳は相変わらず自堕落
な生活を送っていた。ある日知り合った年上の女性に気に入られ、絶対卒業
させてあげると言われて金をもらう。でも結局学校へは行かず、遊びに使っ
てしまうのだった。そんなある日、不良のリーダー格の男の妹が、何者かに
襲われる事件が起きる。
淳には兄がいたが、子供の時に不慮の事故で亡くなっていた。その兄が両親
の跡を継ぐ予定だったのだが、兄が死んでも両親は淳に継げとは言わなかっ
た。淳は家の仕事に興味を持っている様子はなかったが、もしかしたら跡を
継いで欲しいと言われたかったのかもしれない、と思った。父の義一もまた
不器用な人間なのだ。ある日淳はお金をくれた女性に学校へ行っていないこ
とがばれ、彼女は訴えると言い出した。淳は聞いていなかったが、彼女は弁
護士だったのだ。淳は久しぶりに船に上がって、父に「訴えられた」と言っ
た。それでも父はろくに返事をしない。淳は「たまには俺に何か言ってくれ
ねえかな。死んじまえでもいいから」と言うのだった。
淳はおそらく孤独だったのだろう。兄が死んでからずっと。母は割と小言を
言ったりしているが、父は子供に嫌われるのが怖くて何も言わないのだ。父、
母、息子の繊細な関係が見事に描かれていると思った。主演の伊藤健太郎は
役にとても合っていたし、小林薫、余貴美子、石橋蓮司、真木蔵人、毎熊克
哉といった脇を固めるキャストの演技もとても良かった。若者なりの悩み、
中年や老人なりの悩みというものがよく表現されていて、いい映画だった。




映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする