DVDは既に持っていたのだが、今回新たにブルーレイで買い直して、週末に一人上映会を自宅でやることにした。映画のパンフレットを用意して、チラチラ見ながら観賞するのが楽しいので、パンフも久しぶりにコレクションから引っ張り出して準備もばっちりだ。
実はこの映画、ハリウッドが製作したブルース・リーの伝記映画なのだが、ブルース・リーの生涯をリンダ夫人の著書『ブルース・リーストーリー』と、『燃えよドラゴン』の監督ロバート・クローズの著書を原作に映画化したものだ。
最初にコメントしておくが、この映画はある程度ブルース・リーの史実に基づいて描かれているものの、映画を盛り上げる為、かなりのフィクションや、実際にあったエピソードを誇張した内容も多く含まれているが、まあこれはハリウッド映画としてのお愛嬌だろう。
この映画の設定でかなり秀逸だと思ったのは、ブルース・リーが自分や息子のブランドンを狙う悪魔の幻影を見るというシーンを何度か劇中に折り込んでいるが、これは32歳の若さで亡くなったブルース・リーの悲劇的な運命を強調する効果を上げているし、更に切ないのは、ブランドンもこの映画の公開前に映画の撮影中に事故死を遂げるという悲劇が起こっており、まさに悪魔に取りつかれたブルース、ブランドン親子という解釈を折り込んでいるのだ。
ブルース・リーを演じるジェイソン・スコット・リーは、正直ブルースには似ても似つかない。そもそもブルースよりもかなりがたいが良く、イメージがかなり違うのだ。ジェイソンも筋肉がなかなか素晴らしいが、ブルース・リーの筋肉の付き方とは少し違う。
しかし、ジェイソンはブルース・リーの役をかなり好演しており、僕はむしろ下手に似た俳優を探すことに固執しなかったのがかえって良かったのではないかと思う。どうせ完全なそっくりさんを見つけてくるのは無理だし、下手に似てると、本物のブルース・リーの呪縛から逃れられなくなってしまうからだ。その意味では、ジェイソンを選んだのは潔い決断だったと言えるだろう。
ブルース・リーが生涯愛した妻、リンダ夫人を演じた女優のローレン・ホリーがかなり可愛い。実際のリンダ夫人も魅力的な女性であるが、リンダの役をローレンが好演している。今では国際結婚も珍しく無いが、1960年代当時の米国は、まだまだアジア人に対する差別や偏見が根強く残っていた時代であり、白人はアジア人を低く見ていた。そんな時代に、中国人であるブルース・リーとの結婚を選んだ白人女性のリンダは、相当の覚悟があった筈である。リンダの親からもブルースとの結婚を反対され、駆け落ちに近い形で結婚するシーンなども映画に登場するが、この辺りの描写を描き込んだのは本当に良かったと思う。
前にもブログで取り上げたが、ブルース・リーが世界で成し遂げた偉大なる功績がある。それは主演した映画という媒体を使って、アジア映画、そして中国の武道(クンフー)を世界に広めたこと、そしてこれにより、アジア人のステイタスを世界で向上させたことだ。特に、アジア人男性のイメージを、それまでの召使的な低い位置付けから、初めてセクシーと思える存在に押し上げたのだ。その意味で、ブルース・リーは同じアジア人として本当に誇らしく、尊敬に値する偉大な存在なのである。この辺りのことを考えると、いつも胸が熱くなってしまうが、この映画でもブルースが経験したであろう屈辱や苦労を盛り込んでおり、とても良く書けている脚本だと言える。
当時、白人がアジア人と結婚するのがご法度であったように、中国人が自らを守る秘技であったクンフーを白人や黒人などに教えるのももっての他という風潮が当時は根強く、実際に米国の中国人コミュニティーからはブルースは度々注意されたし、嫌がらせを受けたらしい。映画の中でも、中国人武術協会のメンバーと戦う場面もあるが、当時は中国人がアメリカで成功する為に突破しなければいけない大きな壁があまりにもたくさんあったのだ。ハリウッドでも、主役にアジア人を据えるなどはかなり抵抗があったし、『グリーン・ホーネット』での成功があったものの、単独主演作の実現には苦労して、一旦挫折して香港に戻ってしまうのである。このあたりはかなり史実に基づいて描かれている。
基本的には映画としてとても良く出来てはいるのだが、ブルース・リーファンとして幾つか残念なことが存在する。まずは映画でブルース・リーの聖地であるシアトルが出て来ないことだ。映画ではサンフランシスコからLAに移動する設定しか描かれていないが、実際にはブルース・リーは香港からまずはシアトルに渡り、シアトルのワシントン大学に通って哲学を学び、道場も開く。その後サンフランシスコ/オークランドに住み、それからLAに移り住みながら道場を増やして行くのだが、この辺りがかなり映画では端折られている。また、劇中に香港に戻って主演した記念すべき第一作『ドラゴン危機一発』の撮影シーンや、映画館での初上映で会場を熱狂の渦に巻き込んだことなどが描かれているが、その他の作品の撮影風景などはあまり出てこないのも少し残念だ。まあ、しかし改めて観賞してみると、主演作全部をあまり細かく触れなかったのがかえって良かったのかもしれない。
映画全体としては、ブルース・リーへのリスペクトと愛が散りばめられている。キャストにも、例えばブルース・リーの愛娘、シャノンが劇中パーティー会場で歌う歌手の役でカメオ出演しているし、『グリーン・ホーネット』で主役を演じたヴァン・ウィリアムズが、なんと劇中『グリーン・ホーネット』の監督として出演。また、この映画の監督であるロブ・コーエンが、劇中に『燃えよドラゴン』の監督ロバート・クローズ役で出演している。ロングビーチの空手トーナメントでブルースが“ワンインチパンチ”やスパーリングを実演したのは有名な話だが、このトーナメントを主催したエド・パーカー氏の役を、なんと実際のエド・パーカーの息子が演じるなど、かなりのサプライズキャストが登場しているのが面白い。
最後に忘れてはならないのが、この映画の音楽だ。映画を盛り上げるのは、ランディ・エデルマンが作曲したテーマ曲。これが何とも美しく、切ない曲で、このテーマ曲を聴いただけで、胸が熱くなってしまうのだ。こちらのサントラも持っているが、時々むしょうに聴きたくなってしまう。今回もブルーレイを見直している時、このテーマ曲がかかるシーンで思わず涙がこみ上げてしまった。
史実と比べて観ると確かに細かいところの突っ込みどころは満載なのだが、純粋に映画として楽しんで観れば、そこはさすがハリウッド映画だけのことはあり、とても良く出来ている。単なる忠実な伝記として成立させることに注力し過ぎず、むしろメッセージとして一番重要である、“ブルース・リーがどう生きたか”を確り描いたことで、僕としてもそれなりの納得感が得られたのだと思う。
また久しぶりに、どっぷりブルース・リーに思いを馳せた、充実した週末であった。
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