今年第3弾となる芦川いづみ祭りは、1966年の日活モノクロ映画、『愛と死の記録』である。日活からリリースされているこの映画のDVDを実はかなり前から購入して持っていたのだが、なかなか観れずにいたので、今回ようやく引っ張り出しての観賞である。
『愛と死の記録』は吉永小百合と渡哲也のダブル主演作。昭和41年の芸術祭参加作品であった。カラー作品が主流になっていた1966年の作品ながらあえてモノクロ作品となっており、その悲しい物語の影響もあって、どこかドキュメンタリーのようなリアリティのある映画となっている。そして予め記載しておくが、この映画に芦川いづみも出演しているものの、予想していた以上に登場シーンが短く、まさにゲスト出演としてチョイ役で登場する程度なので、芦川いづみ出演作とはなかなか言い難い作品かもしれない。
物語は広島を舞台に、被爆者である青年と、その青年に恋をしてしまう女性のラブストーリーとなっているが、最後に待ち受けている悲劇を描いた作品。ある朝、和江(吉永小百合)は勤め先の楽器店の前で危うくオートバイにはねられそうになり、持っていたレコードを割ってしまった。オートバイに乗っていた青年・幸雄(渡哲也)は、弁償を断わる和江に無理矢理お金を置いていった。幸雄は、この小さな事件を見ていた和江の同僚ふみ子(浜川智子)の恋人・藤井(中尾彬)と同じ印刷会社に勤める親友だった。そこで二人を仲良くさせようと一計を案じたふみ子と藤井により、和江と幸雄は近くの公園で会うことになった。親友のいたずらと知った二人は驚いたが、すっかり打ち解けた。日曜日、和江たち四人は二台のオートバイで広島湾に遊びにいった。楽しい昼食のあとで二組に別れると、静かな砂浜で和江と幸雄は自然に溢れくる愛を感じていた。二人は毎日のように会った。幸雄の恋を聞いた同僚たちは大いに冷やかし、祝福した。ただ幸雄の親代わりになっている製版班長の岩井(佐野浅夫)だけは、深刻な表情をみせた。幸雄は被爆者で、四才のときに父母は死んだ。苛酷な運命を忘れかけたころに発病して入院したが、四ヶ月で回復。その後、岩井の世話で印刷会社に入ったのだ。再発を心配する岩井の恐れは、非情にも早く現実となってしまった。岩井は、幸雄が作業中に貧血で倒れたという報せを受けた…。という展開。
そして、(ここからはネタバレになってしまうので注意)和江との結婚をためらう幸雄だったが、ある日発作を起こして倒れ、その後入院することに。入院先でも体調は次第に悪化していき、和江の看病もむなしく、幸雄はついに力尽きて亡くなってしまう。絶望的な悲しみにうちひしがれた和江であったが、幸雄の死を乗り超えて立ち直りつつあるように見えた矢先、最後は自殺をしてしまうのである。何とも悲しい、ロミオとジュリエットのような悲劇的な結末であった。
この映画はテーマからして決して楽しい映画ではないし、被爆者を題材にしている点で、原爆の悲惨さを描いた反戦映画でもある。後半はかなり気が滅入ってしまう映画ではあるが、そんな中でも前半は純情なラブストーリーとして展開され、吉永小百合の可愛らしさは随所に見られ、また渡哲也との共演作という意味ではフレッシュな顔合わせで見どころも多い。幸雄の友人役に中尾彬、そして和江の友人役に浜川智子(1969年に本名から芸名、浜かおるに改名)が演じており、この4人でバイクに乗ってピクニックに出かけるなどの楽しいダブルデートシーンなどもある。昨年亡くなってしまった中尾彬だが、この映画ではかなり若い姿が確認出来る。また、浜川智子(浜かおる)はこれまで知らなかったのだが、なかなか目鼻立ちがはっきりした美女である。
さて、本題の芦川いづみだが、キャストの中では主人公2人に続く2番手のような扱いになっているものの、登場シーンは驚くほど極僅か。予想していたよりもかなり少なかった。終盤に和江のお隣に住むお姉さんとしてチラッと2回登場するだけなのだが、登場シーンは恐らく合計でも数分くらいの短さで、大して重要な役でもないのが残念だ。かなりゲスト出演的で、芦川いづみ出演作と呼ぶには少し厳しいレベルではある。しかし、そんな短い登場シーンでも、引退間近で大人っぽい芦川いづみの姿を確認することが出来たのは一応収穫ではあった。
よってこの映画は、芦川いづみ出演作品として観賞するというよりは、純粋に吉永小百合と渡哲也の主演作として観賞するのが正解だし、2人の作品としてはその演技も含めて見応えのある作品であった。そして吉永小百合に関しての感想は、やっぱり可愛いの一言。今で言えば、浜辺美波的にキュートな魅力は、悲しく、暗いトーンの本作の中にあってもひと際輝いていたのが印象に残った。そして渡哲也も颯爽とバイクに乗る姿がスレンダーでカッコよく、その初々しい中にも力のこもった演技が光っていた。
本来このような反戦・反原発をテーマにした映画はもっと深くえぐるような辛い作品が多いが、本作は純愛映画としての要素も与えながらも、原爆がその後も若い世代に対してどのような悲劇をもたらしたかという側面にスポットを当てた映画としてはかなり興味深い。また、吉永小百合と渡哲也の若い頃の共演作として、シリアスなテーマに正面からぶつかって挑んだ映画としては、一見の価値がある作品だと感じた。