

主演はブルース・リーの後継として名高い香港の正統派アクションスター、ドニー・イエン。日本ではあまり馴染みが無いかもしれないが、あのブルース・リー香港主演作第一弾のリメイク映画『ドラゴン危機一発’97』など、日本でも公開されている作品が幾つかあるが、実際に彼が主演している映画で未だ日本未公開となっている傑作も多い。そしてこの『イップマン』もそういった作品の一つ。中国本土では空前のヒットを記録。

その後も続編が出来るが、1も2も共に武術指導をあのサモ・ハンキンメ[が担当。しかも2ではかなり重要な役処である武道師範役で登場し、感動的なシーンに一役かっているのだ。往年のジャッキー・チェンファンにはたまらないキャストである。

そしてダニー・イエンのアクションの切れ味が見事なこと!あのブルース・リーも学んだ詠春拳を見事に再現している。詠春拳の特徴は、相手のアタックを防御するのと同時に攻撃のパンチやキックを繰り出すテクニックにある。これにより目にも止まらない早業で相手に攻撃を加えることが出来るのだ。ブルース・リーがあの『燃えよドラゴン』のワンシーンで、白いクンフー服に身を包み、オハラことボブ・ウォールを恐ろしい早業で地面に沈める衝撃的な場面があるが、これはまさに詠春拳のなせる技である。

さて、『イップマン』に話を戻すが、この映画は物凄い『反日映画』である。舞台は日中戦争最中の1930年代、日本帝国軍に占領された中国で展開される。日本の空手と中国拳法のどちらが強いのかを問う設定が色濃く出ているが、それだけではなく、卑劣な日本軍として描写されており、完全な悪役設定だ。同じ日本人として見ていてかなり胸が詰まる思いであり、正直暗い気分になってしまうシーンも数多くある。また、尖閣諸島問題で中国との間がぎくしゃくしているこの時期に見ると、反日映画もかなり堪える。こんな反日映画だからこそ、日本では未公開なのだと納得してしまった。しかし、アクションシーンはどれも見事で、最後の日本軍の大将、池内博之が演じる三浦とドニー・イエンの死闘は圧巻。そして彼の戦いによって中国人の心が一つになっていくラストシーンは、本当に鳥肌が立つほどの感動を覚えた。イップマンはこの戦乱の時代を生き抜き、そして戦後は香港に家族と移り住み、やがて香港で詠春拳の道場を開校するのだが、香港に移る前までが第一作で描かれる。

そして、第二作はイップマン家族が日本軍から逃げ延び、戦争も終わりを告げた中で香港に移ったところから物語は始まる。今度はイギリス人に統治されている香港で、欧米人から見下される中国人として描かれており、中国拳法と中国人のプライドをかけたイギリスのボクサーとの死闘を描く。どちらかというと、第一作の方が伝記的な要素が強く、第二作はロッキーのような娯楽性重視の作品になっているが、反日映画になっていない分、ここちらの方が我々には見やすい内容だ。この続編も香港やアジア諸国で公開され、再び大ヒットを記録したが、やはりこちらも日本未公開だ。

第一作、第二作共に映画の中でイップマンの妻役であるLynn Hung(熊薫林 / リン・ホン)はとても魅力的な女性だ。ルックスははっきりした目鼻立ちの美人顔で中山美穂にも良く似たタイプで映画に花を添える。



映画『イップマン2』の最後に、ちびっ子時代のブルース・リーが入ってきて、イップマンに弟子入りしたいと言い、イップマンが、『大人になったらまた来なさい』と言う、ブルース・リーファンとしてはかなり嬉しいシーンがあるのだが、実際にブルース・リーはその後16歳になった時にイップマンに弟子入りする。単純に喧嘩に強くなって女の子にもてたいという不純な理由で入門する若者であったが、後にブルース・リー自身が創設する武道のジークンドー(截拳道)の基礎になっている点で、イップマンに受けた影響は計り知れない。


それにしても、久しぶりに素晴らしい、感動的な映画に出会えた。またじっくり見たいので、何とかイップマンのDVDを入手したいものである。