Negative Space

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ペキンパーを探そう:『法律なき町』

2016-04-07 | その他


 西部瓦版~ウェスタナーズ・クロニクル~ No.47

 ジャック・ターナー『法律なき町』(1955年、ワーナー)

 ブームタウンを目指す男たちが平原に野営している。はるかな丘の頂に小さな人影が現れ、野営地に下りてくる。初っ端からシネマスコープの可能性をフルに生かしたミザンセーヌ。

 ビジネスを生業としているという男が名乗るが、トゥームストーンでは初対面の誰をも恐れおののかせることになるワイアット・アープという名前に反応する者は誰もいない。

 ウィチタの街に到着すると、ビジネスマンは金を預けに銀行に行くが、そこへ強盗が押し入ってくる。たちまち強盗を取り押さえたアープは保安官就任を依頼されるが、自分の目的はビジネスであると固辞。

 深夜、酔ったカウボーイたちが通りを占拠して拳銃を乱射、流れ弾が窓辺の少年に当たって命を奪う。少年一家の経営するホテルに泊まっていたアープは保安官就任を決意し、その場で酔漢らを逮捕。さらに武器の携帯を禁じ、従わない者を追放するという強硬な改革に乗り出したことが町の名士らを困惑させ、町民との軋轢が生じる……。

 本作のアープはあるしゅのスーパーヒーローであり、ラストに決闘場面らしきものも用意されてはいるが、善玉のアープが悪玉とはりあい、最後にこの悪玉を派手に始末して一件落着といったお話ではまるでない。

 ブームタウンに悪が必然的にはびこるのはここウィチタとて同様。とはいえ、本作では悪の元凶らしきものが特定されることは最後までない。子供の命を奪ったのは長旅の疲れを酒で癒そうとした無害なカウボーイの仕業だし、一旦はアープを敵にまわした町の名士が最後には彼の命を救う。ラストの決闘も行きがかり上の出来事にすぎない。絶対的な悪人は登場しない。逆に言えば、悪の由来が見極められることがなく、悪という謎が解明されることがない。アープはその場その場でこまごまとした悪と対峙し、その悪を消滅させるという保安官の義務を淡々と果たすだけだ。町からひととおり悪を一掃したかれは、つぎの義務に従事すべく、ラストでドッジ・シティーへと旅立って行く。

 物語に山場といえるような山場はなく、アープが誠実に目の前の悪に対処する個々のエピソードが淡々と積み重ねられていく。アープは銃の力で平和をもたらそうとするのではなく、いかに町民に銃を使わせないかに心を砕く。おなじみの無血逮捕という行政手法。それゆえアクションシーンは最小限に抑えられ、スペクタクル豊かなシーンと言えば、平原で馬を駆ってのおおらかなチェイスに指を屈するくらいのものだ。くだんのバントリー・スペシャルも、発砲されるよりは棍棒代わりに使われる。

 ミニマリズム俳優ジョエル・マクリーの演技は、『フロンティア・マーシャル』のランドルフ・スコットにもましてコンパクト。そのポーカーフェイスは人間を超越した何ものかに導かれているような神秘をさえ漂わせる。本作のアープのキャラは、ターナーがホラー映画で描いてきたゾンビたちのそれをかたどっているようにさえおもえてくる。

 アープの伝記作者スチュアート・レイクが、本作では技術顧問として参加している。音楽にハンス・サルター。主題歌がそこそこヒットしたという。キャストはほかに、ヴェラ・マイルズ、ロイド・ブリッジズ、ウォレス・フォード、エドガー・ブキャナン、ピーター・グレイヴス、ロバート・J・ウィルク、ジャック・イーラム、メエ・クラーク。

 バット・マスターソン(キース・ラーセン)が新聞記者として登場するが、実際にマスターソンが記者をしていたのは晩年のことらしい。

 あのサム・ペキンパーがダイアローグ・コーチとしてクレジットされているほか、エキストラを務めている。さて、どこに出ているでしょうか?

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