Negative Space

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成瀬巳喜男の『サイコ』?:『薔薇合戦』

2018-04-15 | 成瀬巳喜男





 成瀬巳喜男「薔薇合戦」(1950年、松竹)


 「しょうびがっせん」と読ませるそうな。原作・丹羽文雄。これ以前に溝口健二が映画化を企てたが実現しなかった。成瀬じしんが古巣の松竹に売り込んだ企画。

 身寄りのない三姉妹。化粧品会社を経営する長女(三宅邦子)と二人の妹(若山セツ子、桂木洋子)が金と男に翻弄されるさまを、パロディすれすれの作為的なシチュエーションとこれみよがしの退廃的な描写でどろどろとえがく。『舞姫』をおもわせる読者への媚びにみちた安い“昼メロ”。

 見どころ(とゆうか、いちばん笑えるところ)は、入浴中の若山セツ子が夫(永田光男)に燻し殺されそうになるシーンだろう。もちろん浴室内の描写はいくつかのアップを除いて省略に委ねられる。「あなた、開けて!」と叫びながら曇りガラスに裸体おしつけるセツ子(またはその吹き替え)のシルエットがエロい。若山が気を失って倒れる瞬間は音によって伝えられる。

 姉に押しつけられた夫と一緒になるまえに、若山は兄の使い込みをもみ消すために兄の同僚・安部徹と「契約」を交わしていた。逢瀬の帰りとおぼしき晩の別れの接吻は背伸びする女のヒールのアップによって示され、若山が安倍に体を許していたことが暗示される。ここでも省略の効果が効いている。

 安倍は若くして妻に先立たれたほんらい同情すべき男なるも、しじゅう爬虫類的なぎとぎと感を安っぽく醸し出す悪役。たいして鶴田浩二(周囲に小柄な役者を配して長身に見せている)は、ドンファン(同名の映画のポスターが職場の壁に貼ってある)ということになっているが、徹底して善人として描かれる。この図式は『明治侠客伝 三代目襲名』における両者の対決によって再現されるだろう(?)。

 多少ともやましい金銭の具体的な額がなんども口にされるところはいかにも成瀬。桂木の「実験結婚」の相手(大坂志郎)には実は妻子があり、生活臭にまみれたその妻が子供を抱いて桂木のアパートに勝手に上がり込んで金をたかる場面も思わず笑ってしまう(ここでも律儀に具体的な金額が口にされる)。コメディーリリーフの青山宏(鶴田の部下)は芸達者。若き岩井半四郎(三宅の燕)はライアン・ゴズリングふう(もしくは政治学者・中島岳志ふう)の甘いマスク。


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