Negative Space

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夕陽に向かって走れ!:『復讐のガンマン』

2015-12-20 | その他



 ウェスタナーズ・クロニクル No.29;セルジオ・ソリーマ『復讐のガンマン』(1968年)

 スパゲッティ・ウェスタンの“三大セルジオ”(是れ即ち三大巨匠の謂い)の一人で、今年94歳で亡くなったソリーマは生涯に三本の西部劇を撮っている。トーマス・ミリアンが同じ乞食のような出で立ちでメキシコあるいはネイティブアメリカンの小悪党を演じるこの三本は、きほんてきに同一の物語の変奏であり、レオーネのイーストウッド三部作のみならず、「騎兵隊三部作」「リオ・ブラボー三部作」にさえ匹敵するジャンル史上の偉大なトリロジーというべきである。さいしょの二本はアルベルト・グリマルディの製作になるもので、レオーネの協力者でもあるセルジオ・ドナーティとソリーマが脚本を手がけている。音楽は三本ともモリコーネ(『続・復讐のガンマン』はクレジット上はブルーノ・ニコライ)。

 舞台はコロラド。山道を逃げる三人の悪党が先回りしたリー・ヴァン=クリーフと出くわす。「おまえらもああなりたいか」。キャメラが右にパンして画面奥の首吊り死体を映し出す。三人を手もなく仕留めるクリーフ。

 元保安官で代議士候補のヴァン=クリーフが鉄道利権のおこぼれをちらつかせる事業家(ウォルター・バーンズ)の甘言にのって、かれの身内の少女を強姦のうえ殺害した容疑のメキシコ人(トーマス・ミリアン)を追う。いたちごっこのはじまり。お互いに相手を仕留めるチャンスが幾度か訪れるが、とどめは刺さない。ヴァン=クリーフの眼中にはミリアンしかない。娼館の女にも色情狂の女牧場主(ニエベス・ナバロ aka スーザン・スコット)にも無関心で、ミリアンの妻を犬ころのように殴打する女嫌い。かわりに臀部(に近い背中)の傷の手当をさせるため敵のミリアンには恥じらいつつも肌を見せちゃう。

 ラストは一粒で三度美味しい贅沢な決闘場面。まずはミリアンと真犯人による短剣と銃の一騎打ちをヴァン=クリーフが見守り、つづいて「エリーゼのために」を引用した音楽をバックにエーリッヒ・フォン=シュトロハイムのパロディのようなウィーンの「男爵」(ジェラルド・ハーター)とヴァン=クリーフの決闘をミリアンが見守る。さいごは『リオ・ブラボー』のジョン・ウェインとリッキー・ネルソンみたいな二人の絶妙の連係プレイでウォルター・バーンズを始末。夕陽に染まる砂漠を別々の方角へ走り去って行く二人を捉えた幕切れのロングショットが爽やかな感動を呼び起こす。

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