Negative Space

日本映画、文語文学、古代史劇映画、西部劇、フィルムノワール、hip-hopなど。

7月4日に追われて:『逮捕命令』

2015-08-29 | アラン・ドワン



 ウェスタナーズ・クロニクル No.25


 アラン・ドワン『逮捕命令』(Silver Lode, 1954年、RKO)


 独立記念日のスモールタウン。いたるところに飾られた星条旗を、ベネディクト・ボージャス製作になる一連のドワン作品(本作はその第一弾)に共通するプリミティブなテクニカラーが際立たせる。祭りの垂れ幕からティルトダウンして、路上にかがみこんで遊ぶ子供たちをとらえる。近づいてくる蹄の音に一斉に飛び退く子等。馬の足のショットからティルトアップ、馬上のダン・デュリエと三人の手下らをとらえる。一瞬で悪人とわかるたたずまい。USマーシャルを名乗るデュリエは(一瞬で嘘だとわかる)奇しくもこの日、婚礼を迎えた村人(ジョン・ペイン)への逮捕状を携えている。容疑は殺人(背後からの銃撃)と金銭強奪。ペインを信頼していた村人らは徐々に疑いを深め、血に飢えた暴徒と化していく(ラストシーンでは教会の扉をぶちやぶって生贄を血祭りに上げんとする)。ペインの味方は富豪の婚約者(われらがリザベス・スコット)と元恋人の娼婦(ドロレス・モラン。製作者の奥方で、この作品を最後に引退)のみ。無罪を証明するために2時間の猶予をあたえられたペイン。カウントダウンと三角関係の相乗効果によってその尺わずか77分の物語はいやがうえにも加速し、大団円にむけて突っ走る。白眉は追いつめられたペインが星条旗だらけの村の広場を逃げ回る長い長い移動撮影であろう。日本でも放映された英国映画協会製作『映画100年 アメリカ編』においてマーティン・スコセッシはこのシーンを引用し激賞していた。撮影は巨人ジョン・オールトン。画面手前の室内のハリー・ケリーJr.(ペインの提示した賞金につられてデュリエを裏切る)のシルエットと明るい窓外のデュリエらを捉えたコントラストなどはノワールの名手としての面目躍如。全体的に窓越しのショットが目立つが、ハリー・ケリーJr.が殺される納屋のシーン、ラストの教会の時計台の梯子のシーンも、暗い屋内に戸外からの光が射すドラマティックなライティングが印象的だ。

 ペインは過小評価されているが、ドワンお気に入りのミニマリズム俳優。アラン・ドワンの代表作のひとつにして、この監督にはめずらしく(?)辛辣きわまりない一本。あからさまな赤狩りの寓話であるが(悪役デュリエの役名はマッカーシー)、ピーター・ボグダノヴィッチによる名高いインタヴューでは、この点についてドワンは見事に空っ惚けている。「この脚本のどこに関心がありましたか?」「どういうことかな? これだけの低予算でこの脚本をどうやって撮り上げるかということにだよ!」。リンチのテーマは『牛泥棒』『激怒』をおもわせ、リアル・タイムによる語りは『真昼の決闘』『決断の3時10分』をおもわせる。