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日本語の諸問題(17) 鏡 (かがみ) の語源

2009年09月19日 | 言語

 鏡(かがみ) の語源について、多くの「語源辞典」は「影・見」からの転説が有力である。「姿見(すがたみ)」からの類推からと思われるが、この説は単なる思い付きの域を出ず、言語学的な論証がなされていない。「影(かげ)」が「かが」と母音交替する例は皆無である。例えば、「酒(さけ)」は「酒樽(さかだる)」とか「酒蔵(さかぐら)」というふうに「え」と「あ」が入れ替わる。これはトルコ諸語に特有の母音調和ほどではないが、母音同化と言えるものである。日本語にはこの現象が多い。「金山(かなやま)」「金網(かなあみ)」「金物(かなもの)」「金槌(かなつ゛ち)」などは「金 (かね)」が「かな」に母音交替したものである。

 しかるに、「金目(かねめ)の物」とか「金持ち」と言うように、交替しない例もある。これは、もともと日本語の「かね」は金 (ゴールド) や鉄などの金属類の意味であったが、後世、貨幣経済時代に入って「 お金  money 」との言葉が生まれたため、「かね」が固定したためであろう。「要(かなめ)・・金目」(key point) と区別するためにも「金目(かねめ)」と母音交替しないのは必然であったと思われる。「影(かげ)」の場合、人名の「影山」も「影絵」も母音交替は起きていない。つまり、「鏡(かがみ)」は「影見」ではない。では真の語源は・・。

 ー鏡は本来輝いていたー

「輝く」とか「輝かしい」の語幹「かが」がそれである。同じ造語法で「はなやぐ」「華やか」という言葉がある。「はなやぐ」は「華、花」に動詞形成の接尾語「やぐ」が付いたものであり、「華やか」は名詞形成の接尾語「やか」が付いたものである、(例、あざやか、 晴れやか、ささやか)。そうして、「華やかな」と形容詞(国文法では形容動詞)を作ってゆく。「かがやか」との名詞形はないが、「輝か・しい」と形容詞形成の接尾語「しい」が付いて形容詞としては存在している。その代わり「輝く」の名詞形として「輝き」は日常語としてある。また、「 かがり火」も「 かが・り・火」であろう。「かがる」との動詞は定着していないが、「かがり」は名詞形(連用形)として「かがり火」との言葉に残されている。
 つまり、「かが」はそれ自体単独では名詞としては使われないが、「かがやく(輝)」の語幹である。この「かが」に「見(み)」が付いたものが「かがみ(鏡)」の語源とするのが言語学的には一番妥当な考えだと思う。現在、博物館で見る古代の鏡は錆びて黒緑色であるが、当初は白銅色に耀いていた。まさに「 かが(耀)み(見)」であった。

 古代日本人(倭人)は鏡を異常に愛好してきたことが知られている。倭の女王・卑弥呼は魏の皇帝から「賜汝好物」として、銅鏡百枚をもらっている。これは北部九州から大量に出土する後漢鏡であろう。後に、倭国の中心となった畿内からは大量の鏡を副葬した古墳が発見されているが、そのほとんどが三角縁神獣鏡である。これらは四世紀以降の大和朝廷の人々の習俗であろうが、三世紀の邪馬台国と四世紀以降の大和朝廷は文化的に明らかに連続性がある。北部九州にあった「邪馬台 (ヤマト) 国」が畿内大和に移動したと考えるのがもっとも理にかなっている(邪馬台国東遷説)。古代の倭人は鏡に何らかの霊力があると信じていたのであろう。

 <追記>
「広辞苑」「国語辞典」「語源辞典」などには日本語の語源として、もっともらしい説が数多く出ている。たしかに正しい説もあるが、中には語呂合わせやダジャレ程度のものも数多い。しかし、これらの本は権威ある学者が監修したものであるので、一般の人たちは信じ込んでしまう。京都大学の著名な国語学者は「商う」の語源は「秋」に「行う」ことだとその著書に書いている。秋に収穫物を売買することから生まれたと言いたいらしいが、商売は秋でなくても、一年中いつでも出来る。私のブログ・「商う」の語源(2007・10・25)を読んでほしい。印欧語比較言語学では、単語の語源の探求は精緻を極め、まさに科学の域に達している。日本語の語源論はいまだに思い付きと語呂合わせが横行している。なお、「鏡(かがみ)」は「耀(かがやく)」から来たとの説を唱えた人はすでにいる。私のオリジナルではないが、言語学的論証は私が初めてと思う。

 


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