読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

日本の政治・経済的閉塞感における、その「官僚の責任」(古賀茂明著/2010年)

2012-10-30 05:10:54 | 本;エッセイ・評論

<目次>

第1章:「政治主導」が招いた未曾有の危機(早まった日本崩壊のカウントダウン、テレビドラマ程度の対応策すら実行できなかった政府ほか)
第2章:官僚たちよ、いいかげんにしろ(発送電の分離は十五年前からの課題だった、原発事故の一因は経産省の不作為にありほか)
第3章:官僚はなぜ堕落するのか(改革派から守旧派へ転じた経産省、規制を守ることが使命という「気分」ほか)
第4章:待ったなしの公務員制度改革(増税しなければ国は破綻するという脅し、官僚一人のリストラで失業者五人が救われるほか)
第5章:バラマキはやめ、増税ではなく成長に命を賭けよ(ちょっとかわいそうな人は救わない、年金支給は八十歳から? ほか)

 

本書は、昨年の7月29日に刊行されています。この時点で古賀さんは、二年弱にも及ぶ「経済産業省大臣官房付」という閑職に置かれていました。そして、その二ヵ月後の9月26日付で辞職することになります。古賀さんがエリートコースから省内傍流に外されたきっかけは次のような要因でした。

 

~通産省や後継の経産省では大臣官房会計課法令審査委員、経済産業政策局経済産業政策課長を歴任するなど本流エリートコースを歩んでいた。しかし、経済産業政策課長時代に杉山秀二事務次官と産業構造審議会の部会新設をめぐり対立。若手官僚とともに事務次官室に乗り込み、財務省管轄の税制改革を経産省が扱うことは危険だと主張し部会新設に反対する杉山事務次官と数時間にわたり議論し、部会新設の同意を無理矢理得たことを契機に傍流に外される。~

 

先日、東京都知事辞職を表明した石原慎太郎さんは、新党結成の理由の一つに「官僚政治の打破」をあげています。17年前に国政のありように辟易して25年の国会議員職を辞した石原さんが、12年に及ぶ都政運営から再び国政に復帰する意味は、相も変わらずこの国に深く根を下す官僚政治の打破。

 

石原都知事辞職、新党結成へ 緊急会見詳報 (産経新聞) - Yahoo!ニュース

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121026-00000097-san-pol

 

戦後、自民党と共に築き上げられた官僚王国は、第二次世界大戦後の「民主化」改革によって作られた諸制度、日本国憲法およびその理念の下に制度化された諸制度・体制を指す「戦後レジーム」からの脱却を標榜した6年前の安倍政権によって一時危機にさらされたものの、生き延びました。

 

「官僚の責任」と題された本書は、現役官僚が自己批判と共に、その中で闘ってきた「異色」官僚からの日本再生に向けての提言。現在の国難にある日本にあって、復興予算の配分実態は今もって変わらぬ官僚の発想の本質が露呈されましたね。

 

明治維新が武士階級の消滅であったことを見れば、平成維新があるとすれば、それは戦後も累々と生き続けた官僚階級の消滅でなければならいと私は思っています。それは石原さんの思いにも通じるものであり、古賀さんの本懐であろうと思います。

 

ただ、古賀さんの最近の言動について、懸念する声があることも記しておきます。

 

池田信夫 blog : 古賀茂明氏の徳治主義 - ライブドアブログ

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51787374.html

 

古賀さんは、小泉政権に発足し、自身も関わった2003年から2007年の4年の間だけ存在した日本特殊会社である産業再生機構に今後の国の政策のモデルケースとして強い感慨を示しています。

 

~当初は5年限定の組織とされていたが、同機構の支援が予定よりも早く進み、対象事業者への支援が全て終了したことから、1年早く2007年3月15日をもって解散し、清算会社に移行。同年6月5日をもって清算結了した。存続期間中におよそ312億円を納税、解散後の残余財産の分配により更に約432億円を国庫に納付したため、国民負担は発生しなかった。職員のうち公務員の占める割合は1割程で、他は民間出身者が占めていた。~

 

産業再生機構 - Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A3%E6%A5%AD%E5%86%8D%E7%94%9F%E6%A9%9F%E6%A7%8B

 

古賀さんはこの産業再生機構の体験から、霞ヶ関の改革について次のように述べています。

 

~若手の登用とともに、外部からの優秀な人材受け入れも積極的に進めなければならない改革の一つであることは疑いようがない。

 

どんな組織であっても、また、いくら優秀な人間が集っていても、全員が単一の価値観を共有していれば、新たな発想は生まれにくい。それどころか、しだいに淀み、活力を失っていき、ひいては腐敗する。大胆な改革とは、多様な人間が集り、忌憚のない意見をぶつけあいながら議論を進め、化学反応を起こすところから生まれるものだ。~

 

橋下大阪市長が投じた一石が今大きな波紋を広げ、安倍さんを自民党総裁に復帰させ、石原さんを国政に戻そうとしています。現在の官僚制度が再編されるとき、世界に対して政治的信頼を得られる新たな日本の胎動が始まるのだと思います。

 

古賀茂明『官僚の責任』|PHP新書

http://www.php.co.jp/books/sp/kanryo.php

 

古賀茂明 - Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E8%B3%80%E8%8C%82%E6%98%8E

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿