読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

弱腰外交と揶揄される政権を戴いた「日本人へ~リーダー篇~」(塩野七生著/2010年)

2010-11-03 08:42:56 | 作家;塩野七生
~日本にはなぜカエサルのような果断なリーダーが出ないのか? 昨今の政治状況をみれば誰もがこうした疑問を抱くことでしょうが、塩野七生さんは本書で、見事にこの難問に答えてくれます。月刊「文藝春秋」の名物連載がついに新書化。小林秀雄氏や司馬遼太郎氏がそうであったように、ローマの歴史と対話しながら、この国のあり方を根本から論じます。(IM)~

<目次>
Ⅰ イラク戦争を見ながら、アメリカではなくローマだったら、クールであることの勧め、イラクで殺されないために、継続は力なり、「法律」と「律法」、組織の「年齢」について、「戦死者」と「犠牲者」、戦争の大義について、送辞、笑いの勧め、若き外務官僚に、文明の衝突

Ⅱ 想像力について、政治オンチの大国という困った存在、プロとアマのちがいについて、アマがプロを越えるとき、なぜこうも、政治にこだわるのか、どっちもどっち、気が重い!、「ハイレベル」提案への感想、カッサンドラになる覚悟、倫理と宗教、成果主義のプラスとマイナス、絶望的なまでの大国の狭間で、帰国中に考えたこと

Ⅲ 歴史認識の共有、について、問題の単純化という才能、拝啓小泉純一郎様、知ることと考えること、紀宮様の御結婚に思う、自尊心と職業の関係、文化破壊という蛮行について、乱世を生きのびるには・・・、負けたくなければ・・・、感想・イタリア総選挙、歴史事実と歴史認識、国際政治と「時差」、「免罪符」にならないために


ほぼ二ヶ月ぶりの投稿です。ここ最近は生産性の低い仕事に忙殺され、本も読まず、映画も観ずの生活が続いています。そんな中、やっと読んだ一冊が本書。本書は、文藝春秋の2003年6月~06年9月号に掲載されたものを収録しています。

なので、本書の話題としては、国内政治的には第二次小泉政権の発足後から2005年9月の劇的な郵政解散総選挙の勝利、そして2006年9月の総理退任までの期間にあたります。国際情勢的には、2003年に始まるイラク戦争勃発をリアルタイムとし、その後各国の動向などについて、塩野さんならではのローマ時代との対比で語られます。

塩野さんといえば、なんといっても代表作「ローマ人の物語」。私は文庫本で読んでいますが、現在40巻刊行されているうちの「ローマ人の物語23危機と克服(下)」までを3年前に読んで以来、頓挫しています。

本書の巻頭では、その「ローマ人の物語」でも著者が度々引用する次の文章が記されています。

~人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと思う現実しか見えていない。-ユリウス・カエサル~

そして、各章の最初には、次のような文章が記されています。


危機の時代は、指導者が頻繁に変わる。首をすげ返れば、危機も打開できるかと、人々は夢見るのであろうか。だがこれは、夢であって現実ではない。(「組織は力なり」より)


自己反省は、絶対に一人で成されねばならない。決断を下すのも孤独だが、反省もまた孤独な行為なのである。(「プロとアマのちがいについて」より)


歴史に親しむ日常の中で私が学んだ最大のことは、いかなる民族も自らの資質に合わないこと無理してやって成功できた例はない、という事であった。(「国際政治と『時差』より」

この三つの文章を見ても、歴史に裏打ちされ現代にも通じる箴言であることがわかります。本分の中でも、数々の箴言が綴られていますが、国際政治の舞台で日本がなかなか有効な一手を打てない理由について次のように述べられています。

~ゲームの卓に坐るからにはプレイヤーたちはカードを持たねばならないが、国際政治はトランプとは違って、カードではなく剣を両脇に差している。カードは自分には見えても他者には見えないが、剣ならば誰にでも見えるからである。その剣だが、切れ味の良いほうからあげていくと、
一、 拒否権をもっていること。
二、 常任理事国であること。
三、 海外派兵も可能な軍事力。
四、 核をもっていること。
五、 他国に援助も可能な経済力。

・・・このように、剣は五本すべてを差していないかぎり、国際政治の世界では主役になれない。
・・・こう話してくると国連や国際政治の場での日本は絶望的で救われない状態にあるように思えてくるのが、勝負を決める手は一つ残っている。・・・マキアヴェッリの次の言葉を明日の外務担当者たちに贈りたい。

~常に勝ち続ける秘訣とは、中ぐらいの勝者でいつづけることにある(「若き外務官僚に」~

その他、次のようなマキアヴェッリの言葉が引用されています。

~天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである(マキアヴェッリ/「どっちもどっち」)

~武器をもたない預言者は、いかに正しいことを言おうが聴き容れてもらえないのが宿命だ」(マキアヴェッリ/「カッサンドラになる覚悟」)

<ニッコロ・マキャヴェッリ - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%AA

悲劇の予言者として知られるカッサンドラは、ギリシア神話に登場するイーリオス(トロイア)の王女。
ヨーロッパでは、現状の問題点を指摘し対策の必要を訴えながらも為政者からは無視されてきた人を、「カッサンドラ」と呼ぶそうです。

<カッサンドラー - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%BC


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