読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

「ローマ人の物語16/パクス・ロマーナ(下)」(塩野七生/新潮文庫刊)

2006-11-03 16:22:22 | 作家;塩野七生
第三部 統治後期(紀元前5年~紀元後14年)
アウグストゥス、五十八歳~七十七歳

その晩年は、帝政の確立への前進とは裏腹にその後継者候補の引き続く死、家族の不祥事(主に娘ユリア)と思い悩む日々を送ったアウグストゥス。著書はその政治手腕を支持する。「カエサルが考え、その後を継いだアウグストゥスが巧妙に、嘘さえもつきながら確率に努めた帝政とは、効率良く機能する世界国家の実現であった、私ならば考える。・・・」

「効率良き国家の運営と平和の確立という時代の要求の前に、六百人(元老院)の国政決定の自由は、死守すべきほどの価値であろう。われわれ人間は、常に選択を迫られる。なぜなら、絶対の善も悪も存在せず、人間のやれるのは、その中韓でバランスをとりつづけることでしかないのだから。カエサルも選択したが、アウグストゥスも選択したのである。選択の結果が、共和政を廃し帝政を打ち立てることであった」。

そして、帝政はアウグストゥスからティベリウスへとバトンタッチされる。
「紀元前16年、二年前のアウグストゥスの死の後を継いで皇帝になっていたティベリウスによって、ついにゲルマニアの地から完全撤退が決定されるのである。とはいえ、撤退は公式に発表されたのではなかった」。

「ローマ全軍の最高司令官である皇帝ティベリウスが、ゲルマニア戦線司令官のゲルマニクスの任地をオリエントに変えるという、このようなことに注意していない人ならば気づかないやり方で成されたのである。進攻していた地から撤退するなどということは、ローマ人にとって、かつて一度として経験したことのない不名誉であったからだった」。

「アウグストゥスの犯したほとんど唯一の失策」である、エルベまでの領土拡張策ではあるが、現代の軍事専門家の次のような考察が紹介されている。

「ライン河は、国境線としては、エルベ河よりも地勢的に明確で、それゆえ防衛上でも容易であったはずである。もしもエルベまでの拡張に成功していたとしても、その後のローマ帝国の防衛はより困難になっていたであろうし、そのための軍事費の負担も増大していただろう。また、後背地にあたるガリアのコントロールも、より手薄にならざるをえなかったにちがいない」。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿