読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

音と言葉の交流、「音楽機械論─ELECTRONIC DIONYSOS」(吉本隆明、坂本龍一著)

2009-12-07 06:49:37 | 本;エッセイ・評論
<目次>
1 現代の音楽工場見学
2 ムジカ・コンビナトリアのあらたな探究
3 電子音楽作曲のためのプログラム―YOSHIMOTO=SAKAMOTO PROJECT(リズム/ベー     スをつくる作曲・補作作業アレンジ)
4 歓ばしき音楽機械!?
文庫版インタビュー モードが変化した一九八四年

副題のELECTRONIC DIONYSOS。DIONYSOSとはディオニュソス。「ギリシア神話で、酒の神。もと、北方のトラキア地方から入ってきた神で、その祭儀は激しい陶酔状態を伴い、ギリシア演劇の発生にかかわるともいわれる。ゼウスとカドモスの娘セメレとの子。バッカス」とあります。本書にこの副題に関する説明はありませんが、「電子工学の神」とでも訳したらいいのでしょうか。

「戦後最大の思想家」と呼ばれ、漫画家のハルノ宵子を長女、作家のよしもとばななを次女に持つ吉本隆明氏。これまで唯一読んだ本と言えば、栗本慎一郎氏との共著「相対幻論」(冬樹社, 1983.10)だったと思います。今回吉本氏のプロフィールを見て、思想家としての活動について並々ならぬ足跡を知りましたが、吉本氏の実家が熊本県天草市から転居してきた船大工であったことで親近感を持ちました。

さて、本書は1984年に坂本龍一さんのとの間で行われた対談の文庫化。この当時の吉本氏の言論状況を見ると次のように述べられています。

~1980年代に入ると当時の豊かな消費社会の発生と連動し、テレビや漫画・アニメなどを論じた『マス・イメージ論』や、主に都市論の『ハイ・イメージ論I~III』を発表。サブカルチャーを評価し、忌野清志郎・坂本龍一・ビートたけしらを評価した。また、『共同幻想論』『言語にとって美とは何か』『心的現象論序説』など、代表著作が角川文庫から刊行された。「80年代消費社会」のシンボルとなったコピーライター糸井重里とは、対談等も行って親しくなり、現在まで交流が続いている。(糸井は、2008年7月19日に2千人の聴衆を集めた吉本の講演会の協力者となっている)~(ウィキペディア)
坂本さんはこの対談を振り返って、次のように述べています。

~そうそう、1984年っていうのがすごい年ですね。ローリーとか、ボイス、パイク、ヤニス・クセナキスが同時に来てね、篠山紀信さんが撮った写真があるんだけど、僕とパイクとクセナキスと他の日本人のアーティストと同時に映っている。・・・それが全部東京に集まってて。まあ写真にはローリーはいなかったけど、でもローリーも同じ年に来て。何か確実にあそこで“ガチン”とモードが変わった。それが日本だけじゃなくて世界的にもガクンッと、ひらたく言っちゃうとポストモダンに突入したとでもいったらいいのかしら。~


<Laurie Anderson - Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/Laurie_Anderson

<Laurie Anderson>
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=f8LquNy3fd8


<ヨーゼフ・ボイス - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%82%A4%E3%82%B9

<「美術界のジョン・レノン」、ビデオ・アーティスト、ナムジュン・パイク>
http://blog.livedoor.jp/asongotoh/archives/51149438.html

<「トップレス・チェリスト」と呼ばれた前衛パフォーマー、シャーロット・モーマン>
http://blogs.yahoo.co.jp/asongotoh/51549589.html


<ヤニス・クセナキス - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%83%8A%E3%82%AD%E3%82%B9

<建築家にして現代音楽作曲家「ヤニス・クセナキス」>
http://blogs.yahoo.co.jp/asongotoh/44412511.html


1984年といえば、今年村上春樹さんの「1Q84」が話題になりました。私はまだ読んでいませんが、村上氏が本作をジョージ・オーウェルの1949年の未来小説「1984年」を土台に、近い過去の小説を書きたいと以前から思っていたことが動機なんだそうですね。オーウェルは35年先を描き、「1Q84」と「音楽機械論」はそこから25年後にそれぞれ前者は書き下ろされ、後者は文庫化されたことが、意味がないようであるような気がします。

<暴力とポップ>
http://www.big.or.jp/~solar/yoshimoto.html


本書では坂本さんが吉本さんに実際に「作曲」させるプロセスが取り上げられていますが、単行本には付録として収録された音源がないのでちょっとわかりづらいのですが、早稲田大学文学学術院教授の小沼純一さんが次のように解説してます。

~今は本当にコンピュータの画面でいろいろな作業が簡単にできるし、プリセットされているものがいっぱいある。けれども、この当時は本当に一からやっていかなくちゃいけなかった。ピッチを決めて波形を決めてというような。でも、「実はそういうところから音っていうのは作られるんだよ」ということがこの本を読むとわかる。だから「今じゃこれは古いよ」と言う人もいるかも知れないけれど、そうじゃなく、電子的に音を作るというのはどういうことなのか?ということが逆にこの本だとわかる。~



<吉本隆明 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E6%9C%AC%E9%9A%86%E6%98%8E


<坂本龍一 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%82%E6%9C%AC%E9%BE%8D%E4%B8%80



<備忘録>
音楽の世界地図(P22)、平均律の採用(P28)、12平均律(P29)、言語の中間(P31)、クラシック音楽は単調(P34)、音と否定意識(P40)、即興演奏(P48)、詩作と作曲(P55)、クラフトワーク「ヨーロッパ特急」(P65)、ローリー・アンダーソン(P71)、喜太郎のうさんくささ(P84)、ジョン・ケージー→シュットクハイゼン→ジョン・ハッセン(P86)、ドラッグよりテクノロジー(P88)、YMO「ライディーン」とクラフトワーク(P99)、初期のYMOの大きなテーマ(P100)、前川清「雪列車」(P102)、演歌のYMOの典型的な特徴(P119)、中島みゆきのうっとうしさ(P130)、吉本の演歌論(P134)、中島みゆきとユーミン(P136-9)、矢野顕子のおもちゃのチャチャ(P139)、「海ゆかば」ニヒルさと「死んでもいいな」(P194)、欧日の音楽受容差(196)

<前川清 雪列車 2005.1>
http://www.youtube.com/watch?v=Q5TpY1J0P5E


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1 コメント

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ハイイメージ論のこととか… (T.KOJI)
2010-10-17 00:29:12
『ハイ・イメージ論Ⅲ』に坂本龍一関係のテキストがないのが残念です。ケージ論をはじめ音楽批評家以上の鋭いクリティークが披露されているので…。このエントリーを読んで「音楽機械論─ELECTRONIC DIONYSOS」が読みたくなりました。いつ購入しようかと…w
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