読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

新・静岡県知事が描いた日本のかたち、「文化力―日本の底力」(川勝平太著/2006年)

2009-07-18 10:44:55 | 本;エッセイ・評論
~21世紀は「文化力」を競う時代──。日本の伝統である文化の力が、国の「たたずまい」をただし、軍事力や経済力ではなく、文化の力が世界を変える。川勝平太が混迷の時代に満を持して放つ、新たなる<日本創造原論>。~

<目次>
第1章 パクス・ヤポニカを拓く
第2章 近代世界システムと日本
第3章 日本文明の底力
文明をめぐって専門分野の異なる四人の識者との対談
・梅棹忠夫氏との対談・・・「文明の『生態史観』と『海洋史観』」
・入江隆則氏との対談・・・ 「近代世界システムから江戸システムへ」
・三浦雅士氏との対談・・・「浮上する海洋アジア」
・伊東俊太郎氏との対談・・・「美しい地球を支える美しい日本」

本書を読んでいた間、著者である川勝平太さんが静岡県知事に就任されたことを知りました。川勝さんのことは、元大蔵官僚で慶應義塾大学総合政策学部教授の加藤秀樹さんが代表を務める非営利シンクタンク「構想日本」が出版した『構想日本〈第1巻〉日本再考 Reexamination』、『構想日本〈第3巻〉温故知新 Wisdom』に対談や論文で参加されているのを読んで知りました。世界の中での日本文化の位置づけについて新機軸を立てておられる方だなという印象を持ちました。

<構想日本 >
http://www.kosonippon.org/

また、先日取り上げた櫻井よしこさんの「明治人の姿」でも、川勝さんの日本文明論が取り上げられていました。

<クール・ジャパンの原点と真髄、「明治人の姿」(櫻井よしこ著/2009年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/0260e13bca8f9a5814aae23c94ed694a


川勝さんは、日本の国土を「文化的景観」という切り口で次のように描いています。

~首都圏の文化的景観は、日本最大の関東平野に展開しているので「野」といえます。中部地方はアルプス・富士・箱根を擁するので「山」、西日本は瀬戸内海を取り囲むので「海」です、そして、北海道・東北は縄文文化の息づく「森」です。文化的景観を軸にすれば、ガーデンアイランズ(庭園の島)の日本列島は「野の洲(くに)」「山の洲」「海の洲」「森の洲」の四州に分けられます。~

~GDP(国内総生産)で見れば、野の洲はフランス、山の洲はカナダ、海の洲はイギリス、森の洲はカナダにひけをとりません。どの洲も先進国の経済力をもっているということです。それゆえ、そこでは先進国経営のノウハウがいります。各洲に、中央に集中している権限(仕事)、財源(カネ)のみならず人材(ヒト)を「三位一体」として委譲すれば、中央政府のエリートたちは、新しい国づくりに向けて、実力を発揮しうるでしょう。それは「美しい日本」建設です。~

その川勝さんが日本という国のかたちを解き明かすために使う切り口は「格物史観」。「格物」とは、朱子学者が「ものにいたる」、陽明学者が「ものをただす」と読んだ、四書の中の「大学」で説かれる概念です。川勝さんは次のように語ります。

~格物史観はその「格物」の思想を知的に継承するものです。西洋由来の社会科学に東洋由来の思想的土台を据えるということです。西洋でいう「社会」とは、いうまでもなく、人間の社会です。社会関係とは人間関係にほかなりません。しかし、どの社会にも、その社会で使われている物があります。社会で使われる物には、まとまりがあります。セットになっているのです。~

~食事、衣服、住居その他、何を見ても、それがセットとして構成されているのに気づかされるでしょう。・・・ある社会で使われている物の総体を「物産複合」と名づけ、物産複合の変化をもって社会の発達を論じることができます。物に即して歴史を見るので、真正の唯物史観です。とはいえ、看板に偽りのある似非の唯物史観が広く流行しているので、それと区別するために「格物史観」と名付けるのです。~

この「格物史観」をもって、川勝さんは梅棹忠夫さんの「生態史観」の功績を讃えつつ、その史観が大陸の史観であり、海洋の視点が欠如していると対峙します。まず、「生態史観」の功績として、川勝さんは10項目に及ぶその今日的意義をあげます。その意義とは次の点です。

20世紀に書かれた心に残る本、後世に残すべき本を、200人弱の政・財・官、文化人が選んだ「20世紀図書館」(1998年)で文学作品に混じって自然科学系の科学書である本書が4位にランクインしていること、日本における文明学の先駆であること、先見性があること、ヨーロッパ中心主義から自由な精神で書かれたこと、フィールド・ワークを書斎の学問と対等に位置づけたこと、人類史の中で牧畜革命を農耕革命と対等に位置づけたこと、「中洋」を発見したこと、日本とヨーロッパを対等に位置づけたこと、地球をシステムとしてみていること、比較宗教論を出したこと。

そして、その上で、川勝さんが提示する「海洋史観」。日本の歴史は伝統的に「日本史」「東洋史」「西洋史」の3つが縦割に並べられることが多いのに対し、「日本史」と「東洋史」「西洋史」の連関をさぐり、さらに海洋史観という地球的視野から文明の興亡を展望する歴史の見方を使って、日本文明の世界史的位置について考察するものです。

この「海洋史観」で、川勝さんは、「近代はアジアの海から誕生した。より正確にいえば、海洋アジアからのインパクトに対するレスポンスとして、日本とヨーロッパに新しい文明が出現した」と述べ、海洋アジアを宗教的風土によってイスラム教とヒンズー教中心の「海洋南アジア」、儒教、道教、シャーマニズム中心の「海洋東アジア」、上記の宗教の他にキリスト教や仏教などほぼすべての宗教が混在する「東南アジア」の三つに区分しています。

本書にはその他様々な知見が述べられ、とてもこのブログでは紹介しきれませんが、日本という国がなぜ経済大国の地位を占めるに至ったについて学ぶための指南書であることは間違い在りません。最後に本書での対談者のリンク先を列挙しておきます。


<梅棹忠夫 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%85%E6%A3%B9%E5%BF%A0%E5%A4%AB


<入江隆則 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A5%E6%B1%9F%E9%9A%86%E5%89%87


<三浦雅士 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%B5%A6%E9%9B%85%E5%A3%AB


<伊東俊太郎 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E6%9D%B1%E4%BF%8A%E5%A4%AA%E9%83%8E


川勝平太[カワカツヘイタ];1948年京都生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科修了。オックスフォード大学哲学博士。早稲田大学で日本経済史を、オックスフォード大学でイギリス経済史を学ぶ。比較経済史専攻。早稲田大学政治経済学部教授を経て、1998年より国際日本文化研究センター教授、現在、NIRA(総合研究開発機構)理事を兼ねる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

<川勝平太 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%8B%9D%E5%B9%B3%E5%A4%AA


<備忘録>;
<第一章 パクス・ヤポニカを拓く>
「文化的景観」(P11)、「ガーデンアイランズ/庭園の島」(P13)、「ウェストファリアシステム」(P14)、「文化には不易と流行、文明には興隆と衰亡」(P15)、「パクス」(P21)

「マルサス人口論」(P26)、「磯田道史『武士の家計簿』」(P34)、「課題としての男女共同参画社会」(P36)、「ユーラシア大陸と日本の人口減少」(P37)、「ヤスパース『歴史の起源と目標』」(P38)、「グロチウス『戦争と平和の法』」(P39)、「おばあさん仮説」(P43)

「神仏習合と象徴天皇制」(P48)、「神仏儒」(P50)、「権力の分離」(P52)、「格物致知」(P55)、「シュンペーター『経済発展の理論』」(P54)、「まとめ」(P66)

「1972年ローマクラブの『成長の限界』」(P74)、「日本の美、ヨーロッパの真」(P85)、「ハレとケ」(P96)、「ジョセフ・ナイ『ソフトパワー論』」(P98)、「ガルブレイスの『日本への期待』」(P99)、「ODAの有効活用」(P104)、「インドとの連携」(P106)、「MEA」(P107)、「四州制」(P112-113)、「那須遷都」(P114)


<第二章 近代世界システムと日本>
「16Cスペイン、17Cオランダ、18Cフランス、19Cイギリス、20Cアメリカ」(P119)、「ぺリン『鉄砲を捨てた日本』」(P141)、「横井小楠」(P141)、「山鹿素行」(P142)、「『土』について」(P145)、「市民革命と士民革命」(P147)、「勤勉革命と二つの生産革命」(P149)、「日清戦争、日露戦争の影響」(P152)、「日本の士民革命、勤勉革命のモデル」(P153)


<第三章 日本文明の底力>
「唯物史観」(P160)、「上山春平『日本文明史の概要』」(P164)、「ウォーラスタイン『近代世界システム』」(P165)、「1200~1600年の日本人の三つの生活様式の変化」(P173)、「照葉樹林文化複合」(P179)、「プローデル『物質文明・経済・資本主義』(P180)、「インダストリアル・レボリューション(産業革命)とインダストリアス・レボリューション(勤勉革命)」(P188)、「アジア文明からの脱却」(P189)、「日中、朝貢関係の逆転」(P195)、「海洋アジア」(P205)、「牧畜文明」(P212)、「三大栄養手段」(P215)、「人類史の時代区分」(P218)、「パーカー軍事革命」(P224)、「華夷秩序」(P235)、「志筑忠雄『鎖国論』」(P236)、「シノマニア」(P240)


<文明をめぐって専門分野の異なる四人の識者との対談(梅棹忠夫氏との対談>
「20世紀図書館」(P248)、「文明の生態史観」(P250)、「日本人はなぜマルクス主義にはまったか」(P260)、「オートジェニックとアロジェニック」(P283)、「カーゴ・カルトとニライカナイ」(P292)

「エリック・ウィリアムズ」(P311)、「江戸化」(P321)、「内に向かう世界」(P323)、「シノワズリとインディアン・クレイズ」(P344)、「太陽の贈与」(P367)

「ギリシャ→アラビア→ラテン」(P373)、「マルクス(唯物史観)と生態史観」(P407)、「共存共生」(P411)、「比較文明学」(P413)、「ハンド・アンド・ヘッド」(P418)


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