美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

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病の告知

2013-07-23 16:04:12 | Weblog

 

 1997年度の流行語大賞にもなった「失楽園」の著者 渡辺淳一氏の初期の作品には、医師の目から人間の内面をテーマにしたものが多く、短編作品「宣告」もその一つです。作品が発表された当時は一般的にガンを不治の病と捉え、医師も患者当人への病名の告知は慎重な立場をとることが当然という背景があります。この作品の中では時代の価値観を受け入れつつも、担当になった若い医師が尊敬する画壇の大家である老人に告知することで残された短い期間、やり残した仕事をしてもらうことが彼の為でもあり且つ芸術界の為でもあると考え悩みながらも余命を宣告します。医師の予想通り、画家は徐々に現実を受けとめ、最後の作品を完成することに熱意を見せます。その姿勢に自分の判断は正しかったと安堵する医師ですが、画家の死後ふとしたことから老画家の内面の葛藤と苦しみに気づき、改めて自分の判断が本当に正しかったか自問する物語です。

 私自身、外科病院での研修医時代に告知をすべきかどうかで迷ったことは少なくありません。なかでも胃がんの再発で転移も確認された40代後半の男性のことは今でも記憶に深く残っています。小説とは逆に、家族の強い希望から最後まで本当の病名は告げませんでした。しかし、その患者さん自身は薄々わかっていたのではないかと思います。あえて気づかぬよう振る舞うことで、家族を気遣い、また確かめないことで希望を残していたのかも知れません。残った家族からは最後まで看取った医師として感謝の言葉はいただきましたが、果たしてその患者さんにとって告知しないことが正しかったかと随分考えました。今でこそインフォームド・コンセプト、患者の知る権利といった意識が定着し、病気に対しては正確に伝え理解してもらうことを原則と考えるようになりましたが、特に根治率の低い進行がんや難病である場合、アメリカ、ドイツ、フィンランドなどと比べ、今でも日本や韓国では家族には告げても患者本人に伝えることは躊躇する傾向があります。

 末期がんである場合、告知を受けるかというアンケートでは8割がYesと答え2割がNoあるいは「わからない」と答えました。同様の質問を今度は治療する側の医師に向けたところ9割がYesですが、残りはやはり悩んでいるという結果でした。この1割の差を大きいとみるべきか僅かなものとみるべきか難しいところです。

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ロンドン見聞録②

2013-07-16 15:08:19 | Weblog

 

 今回のロンドン訪問には、イギリスの医療事情を肌で感じるという目的が第一でしたが、やはりロンドンと言えば大英博物館。一度ゆっくり見学したいという思いから、歩いて数分の場所にホテルをとりました。開館は午前十時ですから、軽く朝食をとって公園を横切り、ゆっくり散歩しながら向かうとイオニア式円柱が並ぶギリシア様式のファサード(正面玄関)が目に入ります。かつて写真では見た、実に壮観で圧倒される迫力ですが、一日の中四季がある」イギリス特有の天気で、地中海の青い空と違いその日も途中から小雨模様とあって、何故ゆえロンドンでギリシア・ローマ様式の建物なのかという捻くれた感想も一瞬浮かびました。(失礼!)とにかく古今東西800万点以上の様々な収蔵品を保有し、年間500万人以上が訪れる言うまでもなく世界屈指の博物館であり、それがナショナルギャラリーや自然史博物館など他のイギリスの美術館、博物館と同様入館料は無料であるのはある意味驚きです。

 大博物館は英王室付き侍医や英国学術教会の会長を務めた医師ハンス スローンの遺言により、英 国政府に寄贈された彼のコレクションをもとに1759年に開館しました。個人としては突出した博物収集家であったハンス スローンですが、それを可能にしたのはやはりイギリスによる当時の植民地支配であり、現在 インド、エジプト、メソポタミア(イラク)に関する代表的なコレクションの多くは植民地であったそれらの国からの略奪品であることは周知の事実であり、大英博物館が世界最大の強奪博物館と揶揄されるのも一理あります。その後当然の如く、古代ギリシアのパルテノン宮殿を飾った「エルギン・マーブル」、エジプトの「ロゼッタ・ストーン」、ナイジェリアの「ベニンのフラーク」をはじめ歴史的に重要な文化財の数々に対し各国からの返還請求が度々されてきてはいますが、英国政府は首を振り続けています。実際返還となると、現在の所有権の問題だけではなく過去の植民地支配、戦争の責任問題なども絡み、おいそれとはいかないのはイギリスに限ったことではないでしょう。

 他国同様、深刻な財政問題を抱えるイギリスが、美術館、博物館などの文化施設を無料で開放する政策を維持しているのは、世界に先駆け市民革命、産業革命を成し遂げ近代社会をけん引してきた誇りと伝統だけではなく、各国の返還請求に対して人類を代表して万人に展示している姿勢を見せる意味もあるように感じます。

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ロンドン見聞録①

2013-07-11 10:07:39 | Weblog

  時期外れの休みをとってロンドンに行ってきました。限られた時間だけに、初めて訪れたイギリスはその中心であるロンドンに絞って、赴くまま見て感じてみようと思いました。ホテルは短い滞在期間中、何度か気軽に足を運びたいと考えて大英博物館最寄の地下鉄ラッセル・スクエア近くにとり、市内の他の場所には地下鉄・バスの一日乗り放題のトラベルカードを利用しました。ロンドン地下鉄は世界初1863年に開業し今年で150年です。初期にできた路線以外は、トンネル断面が丸いため親しみを込めて‘the Tube’と呼ばれています。乗車チケットを購入する駅の自販機で選択できる言語メニューの多さから予想はできましたが、ちょっと狭い車内は、まさに人種のるつぼであり、改めて多文化、多民族国家であることを実感します。

 イギリスの正式名称であるグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(The United Kingdom of Great Britain and Northern IrelandK)が示すように、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという民族、文化および歴史を異とする四地域の連合によって成り立っている国であり、イギリス人という人種は存在しません。さらに、第二次世界大戦後の経済成長期に旧植民地諸国からの移民を積極的に受け入れたことで現在の多文化社会が形成されてきました。他のヨーロッパ諸国でも移民政策は多く取り入れられていますが、国名の通り連合国であることや、いまだに王政、貴族制度が維持され身分的な階級差という意識が現存することでむしろ平等感覚が厳密でない面、文化や民族、宗教に対する同一性を強く求めないところが比較的寛容的な移民政策に繋がっているのではないかと想像します。理想的な平等論よりも、差別や違いは本来あるものとして多様な人間が共存する世界を志向したのでしょう。たまたま訪れたバッキンガム宮殿では、何か王族、貴族のパーティーがあるのか貴族然とした絵で見るような紳士淑女が宮殿に入っていく列に遭遇しました。その横では、様々な肌の色の一般人が昼時間という事で街に出てきて、そのコントラストがまさに今のイギリスを象徴するように私には感じました。

 「食事の美味しい国を植民地にした」と揶揄されるイギリスの食文化は別として、多文化家族という言葉がようやく定着してきた韓国、文化の受け入れ、同化は上手でも人の交流では奥手な日本は、イギリスの在り方は参考にはなるでしょう。

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乳房

2013-07-04 10:40:24 | Weblog

 

 ‘ママ、マミー、マンマ、’多くの国や地域で母親を呼ぶ言葉には何故かmaという発音が含まれることが多いようです。これはラテン語のmammaが乳房を意味することから、お母さん=乳房(おっぱい)から母親を指すことになったと考えれば同一語源と言えます。しかし中国語でもお母さんは媽媽(まーま)、韓国語でもオモニ=オンマですから語源だけでは説明が難しいかも知れません。日本でも赤ん坊の食べ物を‘マンマ’というところから、乳児が一番発音しやすい言葉でもあり、最初の食べ物が母乳であることをおもえば、やはり乳房と関係しているのではと想像してしまいます。何にせよ、古今東西、老若男女、乳房は母性、女性の象徴であることは異論がありません。

 米国の人気女優アンジェリーナ・ジョリーさん(37)が、乳がんのリスクを高める遺伝子変異が見つかったとして、がんを予防するために両乳房の切除・再建手術を受けたことを公表し多くの女性たちに衝撃を与えました。この検査は乳がんと卵巣がんの発生の抑制に関連している遺伝子BRCA1とBRCA2の異常の有無を調べるもので、どちらかが陽性となれば70歳までに乳がん、卵巣がんになる確率は56~87%になるとされます。生涯に8人に1人が乳がんになる米国では、年間10万人がこの検査を受け、陽性と判断された女性の3分の1が予防的に健康な両乳房の切除をおこなっています。一方、日本や韓国でもこの検査は行われていますが、検査結果に基づいた実際の手術や治療のガイドラインはまだ準備段階であり、当然保険も適用されません。日本人や韓国人にもこの遺伝子異常が存在することは確認されていますが、実際のがん発症確率は欧米に比べると低く、遺伝的な要因以外の要素も含めた疫学的調査が必要とされます。形成外科的技術の発達もあり、予防的乳房切除という選択が治療の一つとして注目されてきたのは事実ですが、アンジェリーナ・ジョリーさんのコメントにもあるように予防薬の服用や、頻繁の検査など手術以外選択肢の中の一つであると認識すべきだと考えます。

 乳がんや卵巣がんに限らず、事前に病気の発症確率を知るという技術が今後も開発されていくでしょう。女性にとって乳房を失う辛さは言うまでもありませんが、その対象が‘眼球’であったら、さらに脳であったらと考えると、未来を知ること知らせることの意味を考えざるを得ません。

 

 

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