美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

医療系韓流ドラマ「グッドドクター」と 韓国医療事情

2020-10-26 15:25:37 | Weblog

 医療現場を舞台としたもの、医師を主人公に描かれたドラマは日本でも数多く制作され、それは韓国も同様である。日本と韓国では国民皆保険を基本とした医療制度や医師の社会的評価に共通点が多い為、ドラマの設定や背景に関して視聴者もあまり違和感を覚えない。そしてテーマとして医療系が取りあげられ易いのは、誰もが多かれ少なかれ様々な形で関わらざるを得ない身近な世界である反面、一般の人々には未知の部分も多く、興味を抱きやすいからだろうか。また、救命救急科、胸部外科、脳外科など一挙一動が患者の命に係わる処置や手術だけでなく、その他様々な診療科でも人間の生死や運命に直接影響を及ぼす状況は多く、観る人々に感動を与える題材を探すにはいとまがない。さらに、専門職として女性が最も多く存在する分野の一つであり、仕事上その彼、彼女たちがチームとして密接な関係を持つ必要がある。ゆえに自然と様々な人間同士の葛藤やドラマ、そして恋愛も描きやすいのではないか。

数多い医療ドラマも幾つかのパターンが存在する。不可能を可能にするスーパードクターを主人公にしたもの。大病院内で権力や利益を追求するトップや経営陣と、純粋に患者の治療のみを考える医師との争いを描いた内容。若いドクターたちが日々の診療や患者に向き合いながら悩み、葛藤しながら成長していくもの等々。勿論これらを組み合わせたタイプもある。今回紹介した「グッドドクター(2013年、KBS)」もそれら要素が全て含まれた物語である。本ドラマの一番の特徴は主役のキャラクターである。主人公のパク・シオンは自閉症ながら、天才的暗記力と人体のあらゆる器官の構造を把握する脅威の空間認識能力を持ったサヴァン症候群の青年。彼は幼い頃に出会った医師チェ・ウソクにその才能を見出され、小児外科医の道を目指す。ドラマは青年医師パク・シオンが、障害に対する周囲の偏見や様々な困難に合いながらも、先輩女性医師チャ・ユンソ(ムン・チェウォン)温かい支えや上司キム・ドハンの厳しくも愛情を持った指導のもと、自分自身の弱さを乗り越え成長していく姿を描いたヒューマンストーリだ。韓流ドラマや映画の中で、登場人物たちが各々の立場で理想を追求する姿がよくみる。ある意味‘きれいごと’であるが、その‘きれいごと’の美しさ、素晴らしさをあえて表現する。視聴者はそれがファンタジーだと自覚しながらも、俳優陣の演技力と脚本と台詞の力でカタルシスを覚えるのだ。

今、現実の韓国医療界は大揉めの状態である。胸部外科、産婦人科、重症外傷外科等の命と直結する診療科専門医を志願する若者の減少、医療供給の都市集中による地域格差拡大など日本同様の課題の解決策として、政府は医学部定員の大幅増員と地方公立医科大の新設を一方的に発表した。対して専攻医協議会や大韓医師協会、医学生会は猛烈に反発、一時全国的なストライキを断行する事態にまで発展した。一部国民からはエリート集団のエゴ、医師が患者よりも己の利益を優先するのは我儘との批判も挙がっている。しかし、無条件、医師数を増やすだけで、診療報酬は低く、リスクの高い診療科や地域医療に若い医師たちを向かわすのも無理がある。日本以上の学歴社会である韓国で、夢やプライドを持って熾烈な競争を勝ち抜いてきた若い医師や医学生たちに診療報酬改定や地方インフラの整備の問題より「数を増やせば解決」ではどうだろうか。

ドラマの最終回で主人公が敬愛する上司キム・ドハンに尋ねる「良い医師(good doctor)

とは?」。ドハンは「それを自問自答し続ける全ての医師」と答える。「患者の命を最優先に考え、懸命に努力する医師たちの姿」は医療ドラマの中だけの特別な良い医師の‘きれいごと’にしないためには、医師だけではなく社会全体が医療のあり方をもう一度考える必要がある。

 

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