美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

映画「新感染 半島」映画評

2020-12-12 11:01:27 | Weblog

 

2020年も間もなく過ぎようとしている。本来であればオリンピックイヤーであった今年。今頃は、世界的なスポーツの祭典を無事に終え、その余韻に浸りつつ忘年会では一年の労をねぎらい、また新年への想いを語り合いながら師走の時期を過ごしていただろう。しかし、予期せぬ世界的なウイルス感染により東京五輪どころか、生活スタイルから人々の価値観まで一転してしまう事態となった。ことばで表現するならまさに「ウイズ コロナ(with CORONA)」の年であった。そんな今年、最後に私が紹介する映画も、未知のゾンビウイルスが蔓延した韓半島を描いた「新感染 半島 ファイナル・ステージ」である。

この作品は、日本をはじめ世界160国以上で上映され大ヒットした「新感染 ファイナル・エクスプレス(2016年)」の続編として、それから4年後の世界を描いた映画である。前作に引き続きメガホンを取ったヨン・サンホ監督は、パク・チャヌク、ポン・ジュノに続く、最も期待される韓国映画界の才能として期待される一人だ。前作がカンヌ国際映画祭ワールドプレミアで世界的な評価を得るきっかけとなったヨン・サンホ監督だが、その成功と潤沢な予算を手にし、「プレッシャー以上によりスケールアップした世界観を作れる喜びが大きい。」という言葉通り、特殊効果とアクションシーン満載の大作である。

映画の舞台は、感染爆発により崩壊した韓半島。かつては優秀な軍人であったジョンソク(カン・ドンウォン)は、家族を守れなかった自責感に苛まれながら香港に亡命して生きていた。そんな彼に、ロックダウンされた半島から大金を積んだトラックを見つけ、3日以内に帰還する仕事が舞い込む。志願した仲間と共に潜入した地域は、ゾンビの群れと狂気の民兵集団が支配する世界であった。仲間のほとんどを失いながらも、そこで生き残った一家、母親(イ・ジョンヒョン)と二人の娘ジュニ(イ・レ)とユジン(イ・イェオン)と協力し決死の脱出を試みる。時速300キロで走る特急列車内で繰り広げられた人々とゾンビの闘い、様々な人間模様を表現した前回に対し、ゾンビにより廃墟と化した韓半島で生き残った異常な集団と主人公たちの戦闘が、独特の世界観と凄まじいカーチェイスの中で繰り広げられる。

感染した人間(ゾンビ?)に噛まれること(唾液?)で伝染するゾンビウイルス。ウイルス自体の感染力はインフルエンザやコロナウイルスの飛沫感染に比べれば強くはないようだが、またたく間に中枢神経に侵入し、個体を支配してしまう恐ろしさは映画の世界だけであって欲しいものだ。しかし、実は生物界にも類似の現象は報告されている。良く知られている「狂犬病ウイルス」もその一つ。噛むことで唾液を通し感染し、発症すれば脳神経系が侵され、錯乱状態になり最終的にほぼ100%死に至る。幸い、動物から人へという経路はあっても、人から人への感染報告今のところない。しかし将来ウイルス変異を起こせば別である。また、ウイルスではないが寄生した生物の脳や神経を支配し、その行動をコントロールする微生物は自然界で多く知られている。例えばハリガネムシはカマキリやコオロギの体内で一定期間住んだあと、脳を操って入水自殺させ水中で交尾、産卵する。その他、ディクロコエリウムという扁平生物に寄生されたアリは、わざわざ葉の先端に移動して他の動物に食べられてしまう。ある個体の支配し、宿主を操る一種のゾンビ現象である。

一方、ウイルスが人類の進化や生態系に関与してきたことが最近の研究で明らかになってきた。ウイルスはDNAやRNAなどの遺伝情報は持つが、それ自体単独では増殖機能を持たない。それ故、遺伝子の一部を侵入した細胞のDNAに組み入れることで複製させるのだが、生物がより環境に適合するように進化させることで自身も生き残りやすく働きかけたという事だろう。ゾンビとの共存はご免だが、コロナとの共存(with CORONA)は人類にとっても宿命かも知れない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする