科学の常識と健康常識
40年近く前 初めてソウルを訪問した時の印象は、あまり舗装されていない道路を ものすごい勢いで走りぬけるタクシーのスリル感と、教会、薬局の多さでした。病院に行く費用の問題、当時の医療制度情もあるでしょうが、今でも韓国の人の薬好き?と言う面はあるような気がします。また、健康に関する執着心というか、体に良いものへの関心の高さは、日本人以上ではないかと感じます。親戚と一緒に食事をしながらも、「これは体の○○に良い。」「何々の病気に効く。」などと解説してくれるのですが、私も一応 医者のはしくれですから、顔ではうなずいても、内面それはないだろうなどと思ってしまうことも多々あります。
以前 日本で、「血がきれいになる。」「血がサラサラになる。」と称し、健康グッズを販売、その証拠として採血までして逮捕された業者がいましたが、似たようなうたい文句は多くみられます。そもそも 血液がサラサラになると言うことがあるかといえば、医学的には疑問です。血液は、血管が破れれば、固まって出血を防ぎ、血栓ができれば溶かして流れを取り戻すように、凝固能と溶解能がバランスをとっているのです。血液がサラサラして、固まらなくなったら大出血を起こすリスクがあります。
しかし、時代によって医学常識も変わる為、医者も偉そうなことは言えません。アメリカ初代大統領 ジョージ・ワシントンの死因は、大量の瀉血による出血性ショックだと言われています。当時は、悪い血が溜まることが、病気の原因であると考えられており、咽頭の炎症で発熱して、体調を崩したことから、瀉血治療を受け結果的に死期を早めたのです。治療を行ったのは親友の医師でした。
最近の例では、手術後の傷の消毒に関しても大分考え方が変わってきています。以前は絶対水に濡らさないで、毎日消毒することが必要と考えていましたが、むしろきれいに洗い流し、消毒薬はその細胞毒性の為、傷の治りを妨げるため、あまり必要ないと考えています。昔、武士が戦場の傷を温泉で癒したと言うのは、むしろ現代医学よりも理にかなっていたのかもしれません。