美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

「KING MAKER キングメーカー 大統領を作った男」 映画評

2022-08-18 16:22:44 | Weblog

第二次大戦以降、多くの国が取り入れてきた議会性民主主義。しかし、この制度が正しく機能する為には、国民が誰でも自由で公正に参加できる選挙の実地が前提である。しかし現実には、途上国や独裁国家において不正選挙の報道も多く、また日本、米国、フランスなどの先進国でも、国民の無関心から投票率の低迷が問題となっている。韓国は、「3人集まれば政治の話題(批判?)」と言われる程に政治への関心度は高く、それは投票率にも反映されている。特に社会の中心にいる5~60代は、韓国の民主化は自分らの学生運動を発端に成し遂げたとする自負心も強い。さらに朝鮮半島の歴史を顧みると、国民が監視の目を緩めれば、再び権力者や外部勢力に利用されてしまう不安や不信が潜在的にかも知れない。

今回紹介する作品は、1961年のクーデターからスタートした朴正煕元大統領による軍事政権時代、最大のライバルであり、後に15代大統領となる金大中氏初期の選挙参謀として暗躍した実在の人物’ 厳昌録(オム·チャンノク)‘をモチーフに描いた物語である。彼は、「国民自らの手による民主主義社会実現」という理念を掲げ立候補するも落選続きであった金大中候補に自ら志願し、無償での参謀役を申し出る。選挙運動を指揮した厳昌録は、資金力と権力側のサポートを受け圧倒的に優位な与党支持者に対抗すべく、あらゆる心理戦、手練手管を駆使する。いつしか彼は「マタドール(最後にとどめを刺す闘牛士)の鬼才」「選挙戦の狐」の別名が着けられるも、いつしか人々の記憶からも政治史からも忘れ去られていった。

 映画「KING MAKER キングメーカー 大統領を作った男」の制作は、第70回カンヌ国際映画際ミッドナイトスクリーニング招待作「野良犬の輪舞(2017)」でその才能を世界に知らしめたビョン・ソンヒョン監督。真の民主主義国家を実現し、独裁下にある人々の希望の光となるべく奮闘する政治家キム・ウンボム役に名優ソル・ギョング。「光が強く輝くほど影はより暗くなる」自身の理想と現実に疑問を感じながらも、同じ目標のために進む選択であると信じて、勝利のための戦略を駆使する天才選挙参謀ソ・チャンテを演じるのはイ・ソンギュン。彼は韓国芸術総合大学演劇科1期生出身で俳優としてスタートし、様々な人気ドラマ、映画に出演し人気を博し、アカデミー賞受賞作「パラサイト 半地下の家族」のエリート社長として参加することで国際的にも知名度と実力を認められた。当然のごとく第58回百想芸術大賞では、監督賞、最優秀男性演技賞/男性助演賞を独占するが、主演二人以外にもユ・ジェミョン、チョ・ウジンをはじめとするバイプレーヤ―達の演技、60~70年代の選挙戦を表現する演出、カメラワークも傑出した今年度有数の作品である。

監督がこの映画を観る人々に投げかけたテーマは、政治における目的と手段、理想と現実に対する問いである。キム・ウンボム議員は、冒頭ソ・チャンテと出会う場面で「正義こそ社会の秩序だ」とアリストテレスの言葉を挙げるのに対しソ・チャンテは「正しい目的のためなら手段と方法を選ばない」と師匠プラトンの言葉で反論する。選挙結果で存在価値を証明し、いつかは表舞台で活躍することを夢見るソ・チャンテにキム議員は何度も確認する「(

自ら出馬する)準備は出来たか?」彼の選挙戦術、人心掌握の優秀性は認めながら「どうやって勝つかより、なぜ勝たなければいけないか」が重要であると。牧師、宗教学者、哲学者であったジェームズフリーマンクラーク(1810~1888)が述べた言葉がある。「政治屋は次の選挙を考え、政治家は次の世代を考える」。選挙は勝ってこそ議員つまり政治家と呼ばれるが、目的や理念を忘れたものは選挙屋に過ぎないということだ。「政治において、ふさわしい人に投票すると誰もが思う。しかしときに見た目や、単に雄弁な者に投票してしまう(プラトン)」こちらは選ぶ側の責任かも知れない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする