美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

親子の絆とDNA

2014-08-11 16:01:34 | Weblog

先週 DNA検査で血縁関係がないと鑑別された場合、法律上の父子関係を取り消すことができるか否かの判断が日本の最高裁判所によって下されました。判決がなされたのは3件のケースで、2件は妻側から、1件は夫側からの訴えでした。いずれに対しても最高裁判所はDNA鑑別という新しい科学的手法にたいする特例を認めず、「科学的証明を根拠に法的な父子関係は取り消せない」として従来の民法第772条「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する(摘出推定)」の原則をそのまま適応しました。3件の裁判のうち一件は、既に夫婦関係は解消し、元妻は血縁上の父親と再婚、子供も引き取られた状況でありながら、父子関係を失いたくないという夫の願いが通じたもので特に注目されました。しかし、子供にとっては実の父親と生活しながら、法律上の別の父が存在するということになります。判決は5人の裁判官中賛成3、反対2というなかでの多数決によるものでしたから、難しい判断であったことは想像できます

民法の摘出推定は、百数十年前の明治時代に当時の「家」制度を基につくられたもので、当然DNA鑑定などは想定していません。家族関係も多様化し、価値観も変化している今日にあっているかどうか議論の余地がありそうです。家族制度と言えば韓国では2005年3月に従来の「戸主制度」の全面廃止という民法の画期的な大改正が行われました。そもそも韓国の戸主制度は、植民地下にあった韓国で日本の民法を土台として、儒教的韓国の封建的な家族の考え方に、日本の戸籍が合体してつくられたものだといわれます。戸主制度の下では、結婚すると妻は夫の戸籍に入り、戸主の継承は、夫、息子、男性の孫の順で、男性がいない場合のみ娘、その次が妻となります。子どもは父親の姓を名乗り、両親が離婚しても子どもは父親の戸籍に残されます。母親に親権が移り、母親が再婚したとしても子供の姓は前夫のままで、一家族で皆異なる姓を持つわけです。男尊女卑というだけでなく、現代の道徳観念に照らしても多くが不自然と感じるのは当然です。この法改正も男の子を産みやすくする漢方薬を求める女性の相談メールが逆に、インターネット上で戸主制の不合理意見を集約することになり法改正運動に繋がったと言われますから、何とも新旧混在の韓国らしいですね。

一方手軽になったDNA鑑定ですが、妻の浮気を疑った夫からの依頼が多いようです。結果に関わらず信頼が破綻することもあり夫婦関係が壊れるだけでなく、結局傷つくのは子供であることを思えば今回の最高裁判所の判断は、親子や人間関係の意味に対する警告とも受け取れます。

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留学のその先

2014-08-01 16:43:39 | Weblog

ソウルに住む親せきの子供がアメリカでの1年ほどの留学生活を終えて先日戻ってきました。まだ小学校高学年ですが、逆に吸収の早い今こそ生の英語を身に着けさせるだけでなく、子供の頃から海外を知ることで広い視野を持って生きて欲しいという願いがあったようです。その母親からのメールを見ると近所のアメリカ人に送る英文メールを子供に手伝ってもらった様子などが嬉しげに綴られており、決して少なくない費用と手間をかけて小さな子を留学させることへの是非は別として、現時点では親として満更でもないようです。

韓国では1990年以降、グローバル化が国家政策の一つとして位置付けられたことで、英語習得は国際競争力を高める為には必須であると認識されました。それでなくとも子供の教育には人一倍熱心である韓国の親たちが我が子に「使える英語能力」を与えたいと生活費を削っても早期留学ブームが起きたのは必然のことだったでしょう。1997年の通貨危機により一時的に留学生数は減少するものの、1999年から急激に経済成長率も回復、経済危機を経験したことでグローバル化への意識はより強まることで、早期留学を目指す家庭はより多くなりました。2001年頃には子供の留学目的で妻子を海外に住まわせ、父親は国内に残って生計を支える「キロギ・アッパ(雁のお父さん)」という言葉が皮肉まじりに流行し、家族問題としても取り上げられます。そんな「キロギ・アッパ」に対する批判の声が大きくなると母親は同行させず「ナ・ホルロ留学(私一人で留学)」が増加しました。さらに早期留学に備えて、アメリカなどの英語圏国家の市民権を得るための「海外遠征出産」など傍目からは行き過ぎとも思えますが、その熱意には頭が下がります。一方、海外で大学まで卒業したものの韓国内の企業に就職するには韓国語能力や国内常識が不足しマイナスとなると聞くや国内の大学、大学院に「逆留学」する現象まで起きました。NSF(National Science Foundation)の最新の統計による米国大学への国別留学生数を見ると、韓国は中国に次いで2位、大学院生数でも3位です。日本の学生が少子化や経済的理由の他、全体的な内向的志向から年々留学者数、特に欧米への進学者が減少(7位、9位)しているのとは対照的です。

一部の富裕層にみられる「退避留学、現実逃避留学」は褒められたものではありませんが、多少意図は異なっても「かわいい子には旅させよ」の意義と親の思いは古今変わらないようです。もし遠い未来、過去に留学できる時代が現実となれば、それこそ温故知新を体現することで争いを繰り返さない世界が訪れることを一人空想してもみました。

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