美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

「コンフィデンシャル 国際共助捜査」映画評

2023-09-21 17:47:19 | Weblog

 2020年より始まったいわゆる‘第4次韓流ブーム’は、コロナ禍で外出の機会が減り、自然と動画配信サービスの需要が高まったことが大きな原因であった。その時人気を二分した韓国ドラマが「愛の不時着」と「梨泰院クラス」。若者を中心に男女問わず高い評価を受けたサクセスストーリー「梨泰院クラス」は、その後日本でも「六本木クラス」としてリメイクされた。一方、北朝鮮のエリート将校と韓国財閥の娘のラブストーリー「愛の不時着」は、日本は勿論、世界のどの国であっても再現は不可能だろう。
大戦後の東西冷戦を起因とした分断国家のうちベトナムは76年、ドイツとイエメンは90年に統一した。唯一現在も分断状態であるのが韓国と北朝鮮である(中国と台湾を分断国家と定義すべきか異論はあるが)。この現実は歴史上の悲劇であり今も多くのの問題を抱えている反面、文学、演劇そしてドラマや映画などエンターテインメント分野の題材としては数多く取り上げられてきた。しかし、その描き方は時代や政治背景により異なっている。南北の関係をテーマにした作品が登場し始めたのは、韓国戦争(六二五戦争、朝鮮戦争1950~53)の傷跡が未だ癒えていない50年代後半からである。そして60年代から70年代は軍事政権下の反共法もあって、北朝鮮を好意的、同情的に描くことが許されず、無条件悪く描かなければ「容共」と見なされた。厳しい検閲による画一的な表現が変化してきたのは、
80年代の民主化運動を経験した60年生まれの「386世代」が映画界に台頭してからである。カン・ジェギュン監督による「シュリ」(1999)や「ブラザーフッド」(2004)、パク・チャヌク監督の「JSA」(2000)など、金大中政権で検閲が廃止され抑圧されてきた様々な物語が噴き出してきた。
 その後、韓国映画は世界進出を目指すなかで、海外で広く受け入れられる娯楽性を強め、ファンタジーの要素を多く取り入れた作品が増えていった。今回紹介する「コンフィデンシャル 国際共助捜査」も、前作「コンフィデンシャル 共助」(2017)の続編として制作された痛快アクション大作である。ドラマ「愛の不時着」で寡黙だが、命がけで愛する女性を守り抜く北朝鮮将校を演じたヒョンビンが、ここでも実直で屈強な北朝鮮特殊捜査員(少佐)役として登場する。映画のストーリーは、北朝鮮の特殊捜査員リム・チョルリョン(ヒョンビン)が、北から逃亡した国際犯罪組織のリーダーの逮捕と消えた 10 億ドル奪還の任務を受け再びやってくる。北朝鮮側の捜査協力要請に対して、捜査の失敗により左遷されていた南の破天荒なベテラン刑事カン・ジンテ(ユ・へジン)は、現場復帰をかけ相棒役を志願する。 こうして2 人は前作に続いて 2 度目のタッグを組む。今回の注目は、チョルリョンに恋するジンテの義妹ミニョン(イム・ユリ)との再会とて恋の行方は?さらに、米国からも犯人を追って訪韓するイケメンFBI 捜査官のジャック(ダニエル・ヘニー)の登場で奇妙な三角関係の成立?と、さらにアクションだけでなく、韓流美男美女の共演もスケールアップし、男女ともに楽しめる。
 韓国ドラマや映画では暫し、娯楽作品であっても社会に存在する現状や問題、権力者の横暴、腐敗などを描き、それを乗り越えていく主人公に視聴者はカタルシスを感じる。そして
南北分断は歴史的にも、国の根本的なあり方や、国際政治その他の面でも最も根本的なテーマである。反面、分断から70年以上過ぎ、韓国の人々にとって現況への一種の慣れと、現実の受け入れが進み、切実な統一への希望は希薄になっている。映画で北朝鮮の登場人物を魅力的な才能の持ち主や、スーパーマンのように描くのは、何とか人々の関心を繋ぎ止めようとする意図もあるのではと勝手に想像もする。先日のニュースは、北朝鮮内のコメントで韓国に対して’南朝鮮‘ではなく‘大韓民国’との表現を使用したことが伝えられた。もはや別々の国であるという意味であろうか。現時点では、北朝鮮こそ韓国にとって最も近くて遠い国になっているのかも知れない。

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狎鷗亭(アックジョン)スターダム 映画評

2023-09-05 17:58:28 | Weblog

 

2000年代初め、‘冬ソナ’や‘チャングムの誓い‘などのドラマ放送をきっかけに‘第一次韓流ブーム’が巻き起こった。それに伴い韓国文化、社会に対する関心も集まるなかで、韓国の美容外科の現状が興味本位で伝えられた結果、「美容整形大国」いう表現がメディアで使われ始めた。この言葉の裏側には、それまで普通の日本人の感覚=所謂「親からもらった体にメスを入れる」行為への抵抗感もあり、少なからず否定的な意味合いも含まれていたと思う。しかし、あらためて考えると日本以上に儒教が社会規範や価値観に強い影響を持った韓国で、なぜ美容外科が広く受け入れられたのだろうか? 

韓国では子供の頃、しいては出産直後から、容姿や外見を評価される。親戚を含め周囲から男女限らず、この子は美男だ、美女だ、あるいはその逆も歯に衣を着せず言われる。それは幼少時から大人になるまで続き、褒められるにしろそうでないにしろ本人は当然強く意識せざるを得ない。ヒトは性格や個性、能力を持って総合的に評価される。しかし、韓国のように価値評価の中で外見の占める割合が高いと考えら社会では、特に女性の場合、美を追求することが自己価値を上げると考えるのも当然と言えば当然。最新の美容法や化粧品が広がる以前から、民間療法的な美容法や美肌法が多くあるのも、韓国女性が昔から美容に高い関心を持ち、実践してきた証拠である。美容外科をはじめとした、美容医療が発展し、広く受け入れられる土壌は十分であっただろう。市場の原理として、重要があれば供給が生まれる。私が韓国で医学を学んでいた80~90年代には既に、美容外科の基礎である形成外科は人気であり、専門医過程に進むのは狭き門であった。結果的に優秀な学生が集まり、結果的に現在の韓国美容医療の発展に至っている。

現在、韓国全体で美容外科、美容皮膚科は4千数百件とされるが、その半分がソウルに存在する。その中でもお洒落なショッピング街として知られるソウル江南地区の狎鷗亭(アックジョン)には、通称‘美容整形通り‘といわれる一角もあり、およそ800件が集中している。今回の作品は、この狎鷗亭(アックジョン)亭を今のような「美容整形の聖地」にまでに創り上げた男の物語である。ストーリーは、狎鷗亭(アックジョン)で生まれ育った風変りだが憎めない主人公テグク(マ・ドンソク)を中心に展開する。生業は不明だが、とにかく比類のない顔の広さと、愛嬌、それに腕っぷしで、頼まれごとは何でも引き受ける不思議な人物テグクは、天才的な技術を持ちながら騙されて医師免許はく奪の上、多額の借金まで背負うことになった美容外科医ジウ(チョン・ギョンホ)と組み、かつてない新しい美容整形ビジネスをこの地で始めようと決意する。かつては弟分だったヤクザの実業家、中国人の富豪、怪しげな美容サロンの女主人と、一癖も二癖もある人間たちを巻き込んで話は展開していくのだが・・・ 主演のマ・ドンソクはシリーズ化した「犯罪都市」の大成功で、今韓国映画界でNo1ヒットメーカーの座を確実にしている。今回は、腕力こそ多少封印したが、ユーモア溢れる存在感は健在だ。

最近、人種や性差別に対する人権運動の高まりと共に、ルッキズム(lookism、外見重視主義)を批判する論調もよく目にするようになった。韓国はある意味わかり易い?ルッキズム社会である。一方、日本は建前上「見た目より中身、外見より心」を当然の理として語られて来た。大ヒットした韓国映画「カンナさん大成功です(2006)」は才能があっても容姿で損をしてきた女性歌手が、整形手術を受け大変身し成功を目指すストーリーである。まさに映画の舞台となったのは、今回の作品とほぼ同じ時期の話だが、実はその原作は日本の漫画であった。現在では美容医療も韓国に劣らず人々の中に浸透しているが、当時の日本社会の本音を、韓国映画の中でより成功物語として映像化したと考えると面白い。

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