先週 東洋経済日報編集部の方のご厚意でサントリーホールでの東京フィルハーモニー交響楽団の演奏を聴く機会に恵まれました。特に今回はピアニスト、作曲家としても著名なロシアの音楽家ミハイル・プレトニュフによる指揮、そして幼少時から傑出した才能を注目され、20才にして既に独自のスタイルを身に着けつつ成長を続けている韓国の気鋭ピアニスト チョ・ソンジンの共演です。彼は6歳でピアノをはじめ、14歳の時 世界中のピアニストにとって登竜門ともいえるショパン国際ピアノ・コンクールで1位、翌年には浜松国際ピアノ・コンクールでは最年少15歳で優勝し、この時 審査員長を務めた中村紘子さんに「圧倒的な桁外れの才能」と言わしめました。その後も数々のコンクールで受賞し、今では世界の一流交響楽団から招かれ活躍中の逸材です。今回演奏したのはショパンのピアノ協奏曲第一番ホ短調。作曲家であると同時に、19世紀において歴史に残るピアニストの一人でもあったショパンのシルフ(空気の精)といわれた優美で空気のような軽いタッチを想わせる自然な美しさを感じるものでした。
チョ・ソンジンの演奏を聴き、彼の若さを考えれば天性の素質、生まれながらに与えられた才能を否定する人はいないでしょう。しかし音楽やスポーツなどの専門的技術の発達については、これまで「生まれ(遺伝)か育ち(環境)か」という論争が繰り広げられてきたのも事実です。今年6月、米ミシガン州立大学心理学教授のザック・ハンブリック氏らによって発表された研究によれば、「すぐれた音楽家は、その技能を獲得するために必要な長時間の練習ができるよう遺伝子にプログラムされている」ということです。 ハンブリック氏らは、名人級の音楽家は普通の音楽家よりもはるかに多く練習しているという調査結果を得、そのうえで一卵性、二卵性双子を比較し遺伝子の影響を評価する双生児法を用い、「より多くの練習を行う傾向は遺伝の影響も受けている」という結論に至りました。この研究は音楽家を対象にしたものですが、誰もが認める超一流といわれる運動選手が、自分は天才でなく人より努力した結果と答えるのをよく耳にします。決して謙遜ではなく素直な気持ちでしょう。
幾ら才能?があっても努力があってこそ開花するという点には納得です。しかし、その努力をできるかどうかも遺伝子によって決められているとなると、私のような凡人は少し複雑な気持ちになります。