詩のノォト fossil in blue

生涯にわたる詩のブログ、生と死に揺らぐ詩、精神の暗く重い音のない叫びの詩

切ない光り

2004年10月23日 | 90.1.8~95.7.17
今日はベートーベンのインディーノが
深緑の透き通った水面に揺らいでいる
記憶の箱がチラッと開いて
昔の陽射しが薄く漏れる
年代もののモノラルな音をして
懐かしい
だが鮮烈に
想いの国からやって来る

たおやかなバイオリンの流れに乗って
心静まるアンダンテカンタービレは
どこかへ行ってしまった
わたしはここにいるけど
わたしはここにいない

箱はいつからか箱になってしまって
鍵のないわたしは
俯瞰で箱を眺めている

それでも時たま貝の蓋が少しだけ開くように
細い隙間から一本の光りのすじが
こぼれてくる
セピアな空気の中の
セピアな蓄音機の姿をして
こぼれてしまう

今日はあの美しいベートーベンのインディーノになって
わたしは過去のかげろうを聞く

95.2.27 pm2:18



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