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労働者の業務上横領罪、詐欺罪

2010-01-14 21:07:57 | 労働法

以前からそうだが、とにかくこの世には「横領犯」が多い。
新聞記事に出てくる数の10倍以上はいるだろう。

何故このようなことをいうのかというと、弊所の関与先様の従業員だけでも、毎年二桁以上の横領犯のご相談をいただくからだ。
ここでいう横領犯とは、勤務先のお金や品物等を着服する者をいう。

横領犯は、当然ながら刑法上の犯罪者だ。
刑法253条は、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する」と規定している。
しかし、事業所内で横領事件が生じた場合、本人が金品を返済(返還)することを条件として刑事告発しないケースが多い。
刑事告発することで万一新聞に掲載されたりしたら信用に傷がつく、等の考え方が理由の多くだが、中には刑事告訴の仕方がわからなかったり面倒だったりする例もある。

ここで少し考えたい。
今やコンプライアンス(法令遵守)の時代だが、刑法犯であることを明確に把握しておきながら、これを刑事告発しなかったことを第三者が知ったときの方が問題ではないだろうか。
昨年か一昨年前、社会保険事務所の職員が金銭横領をしているにもかかわらず、これを刑事告発すらしてないかったことが社会問題になったが、まさしくこれと似たようなケースでもある。
社会保険事務所職員による横領は公金横領だから、民間企業の横領よりもさらに罪が重いと考えるが、罪の軽重よりもその行為自体が同様であることから、やはり刑事告発はすべきだろう。

一方、単に占有する物の着服ではなく、虚偽の申請等によって事業所から金銭を巻き上げる行為も犯罪だ。

よくある例が、通勤手当の不正受給だ。
不正受給の方法として多い事例は、次の通りだ。

・ 実は近くに引っ越したのに、これを隠して高額な通勤手当の受給を継続する方法
・ バス等公共交通機関で通勤すると届け出ているにもかかわらず、密かに自転車通勤等をする方法
・ 自宅より会社に近い彼(彼女)の家から通勤していること秘匿する方法

通勤手当は、本来は事業所は支払う義務を負わない。
しかし、就業規則等で支給要件等を規定すれば、その規定に従って支払う義務を負う。
従って、既述の不正受給の事例も、勤務先によっては不正に該当しないケースもあるだろう。
ただ、もともと通勤手当は「通勤に要する実費支弁」を目的とする制度だ。
事業所から労働者に支払われる賃金はすべて給与所得として給与所得控除後の額は課税対象となるのが原則だが、通勤手当は「実費支弁」だから一定要件を満たすことを前提に非課税なのだ。

通勤手当の不正受給は、刑法上の詐欺罪に該当する。
刑法246条1項は、「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する」と規定し、同2項は、「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする」と規定している。
さらに、刑法250条は、「この章の罪の未遂は、罰する」と規定する。

刑法上の詐欺罪に該当する例として、時間外労働割増賃金の不正受給も考えられる。
この例は、特にタイムカード等でのみ労働時間を管理している事業所が被害に遭いやすい。

具体例として、終業時刻後も業務上の必要もないのに事業所に居残り、労務に従事してない時間について労働時間と申告する例が考えられる。
また、終業時刻後等に私的な外出をし、外出時にタイムカード等の打刻をせず、そして事業所に戻って打刻した後に帰宅する例もある。

これらは、不当に時間外手当を受給しようとする行為であり、そうすることで割増賃金が支払われることを狙って行っているのであれば、立派な詐欺罪だ。

事業所は、過度に従業員を信用してはならない。
かといって、すべてを疑ってかかってもうまくいかない。
とかく労務管理は難しい...