7月は社会保険算定基礎届の手続が必要である。
社会保険労務士の労働社会保険諸手続業務の中でも、4月の労働保険年度更新と7月の社会保険算定は、特に業務が集中する時季である。
労働保険料は、賃金に比例して保険料が計算されるが、社会保険料はやや異なる。
いったん決まった保険料は原則として1年間変わらない「定額制」なのである。
この「いったん決まった保険料」を決めるための作業が、今回の社会保険算定基礎届である。
4月~6月に残業等が多いと、その後1年間の保険料が高くなってしまう。
逆に、この時期の賃金が低ければ、その後1年間の保険料は安くなる。
また、4月昇給の会社が結構存在するが、どうせなら7月に昇給した方が会社も本人も保険料負担は軽くなる可能性がある。
しかし、以前は賞与からは雀の涙ほどしか保険料がかからなかったため、年収は同じでも賞与の比率が高いほど保険料が安かったが、現在はどちらも大差ない。
つまり、合法的な社会保険料対策の範囲内では、さほど大きな保険料抑制ができなくなったのである。
社会保険料は高い。
高すぎる。
いろいろな原因があるが、個人的に問題視している大きな原因は、つぎの通りである。
①運営費の無駄
民間企業では考えられないほど「無駄」が多い。
特に、制度が複雑で、生まれてから死ぬまで何度も加入制度が変更される点が大問題である。
例えば、つぎのような感じである(ある女性の健康保険、一部他の選択もあり)。
出生(公務員共済の被扶養者)→親が退職(国民健康保険)→親が大企業に就職(健康保険組合被扶養者)→親が地元企業に転職(政府管掌健康保険被扶養者)→本人就職(政府管掌健康保険)→結婚(変わらず)→出産を機に退職(夫の健康保険被扶養者)→夫退職して自営業に(国民健康保険)→夫自営業が法人化(政府管掌健康保険被扶養者)→夫の会社を手伝う(政府管掌健康保険)→退職(政府管掌健康保険被扶養者)→夫引退(国民健康保険)→75歳に(後期高齢者医療制度)
以上のように、何か変わると保険も変わる。
その都度手続があるため、書類が必要で、処理に要する人員が必要で、保険料徴収機関が必要で、会計担当者も必要で、そのための事務所が必要で...という感じでキリなく続くのである。
しかし、原則として人生のほとんどの時期において「3割負担」ということは変わらない。
だったら、複雑なすべての制度を一本化するだけでどれだけ国家負担が減る(即ち、国民負担が減る)ことだろう。
ちなみに、「無駄」は他にも大小様々多数存在する。
②保険料負担の不公平
福岡市の国民健康保険料は、一人当たり年間平均でいくらくらいであろうか。
例えば、前年の年収が400万円~500万円程度あれば、独身者は上限の年間53万円負担となる。
単純に12で割ると、月額約44,000円強である。
これが、政府管掌健康保険であれば、単純に保険料率8.2%で計算して、年収500万円でも年間41万円である。
しかも、勤務先が半分負担してくれる。
ちなみに、福岡市国民健康保険料は、数年前のデータであるが、一人当たり平均負担額は年間7万円程度である。
「年間」負担額が、平均7万円である。
政府管掌健康保険は、主にサラリーマン等が加入しているが、共通点は「所得者」である。
一方国民健康保険は、新聞等では「自営業者等」と表現されることが多いが、実態は「政府管掌健康保険等でないすべての者」であり、「無収入」の者も多く含まれる。
そして各保険制度ごとに制度内の医療費をまかなおうとするから、国民健康保険に加入する「所得者」は大きな負担を強いられるのである。
(高額所得者については、上限額制度の恩恵を受けて国保の方が負担が少なくなる)
ついでにいえば、年金制度も不公平すぎる。
共稼ぎ夫婦のAとB、母子家庭の母であるC、自営業者のDとその配偶者(専業主婦)E、サラリーマンFとその配偶者(専業主婦)G、20歳の大学生Hの8人。
この中で、Gだけは年金保険料が「タダ」である。
タダということは、他の7人が支払った保険料から、Gの年金のために積立が行われている、ということである。
「よその奥様」の年金のために、共稼ぎ夫婦、母子家庭の母、自営業者の妻、大学生等が負担させられる理由がよくわからない。
保険料が高いと感じるのは、余計な保険料まで負担させられるケースが多いことも大きな原因なのである。
③運用の失敗
特に年金保険料は、行政から見れば将来の支払のために預かる金銭であり、長期間の運用が可能なはずである。
しかし、結果はここに書く必要もないだろう。
そもそも厚生年金制度は、何と大東亜戦争中にスタートした制度であり、その真の目的は「戦費調達」であった。
つまり、「まず集めて使う」という発想であり、戦後昭和36年に国民皆年金制度がスタートしたときは高度成長期であったにもかかわらずこの発想が継承されたようである。
「世代間扶養」なので、今の労働世代が今の高齢者を支える、という考え方そのものには抵抗はない。
しかし、少子高齢化は数十年前から予測されていたことであり、実際に制度維持が困難になるまで放置したことが問題である。
保険料が高いのは、支える高齢者の数がどんどん増加することによって当然のように1人あたりの負担が増加するしくみに原因があると同時に、もともとの運用の失敗による「逸失利益」が大きすぎるためである。