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年次有給休暇

2010-01-13 19:33:16 | 労働法

昨日に引き続き、改正労基法。
今日は年次有給休暇。

まず、「年次有給休暇」が正式な名称だ。
一般に「有給(又は「有休」)」と略されることが多いが、実はこの略称は誤解につながりやすい。

「有給(有休)」とは、「給与が有る休暇」という意味であり、例えば年次有給休暇でない休暇であっても給与が保障される休暇はすべて「有給(有休)」だからだ。
法律上、事業所に休暇の付与が義務づけられる制度は多数あるが(「法定休暇」、下記参照)、休暇の付与に加えて賃金支払い義務まで課しているものは年次有給休暇が唯一の制度だ。

事業所が独自に休暇について賃金を保障することは自由だ。
一般に、慶弔休暇制度を設け、これを有給休暇とする例は多い。
しかし、慶弔休暇制度を設けて、これを無給扱いとしても何ら違法性はない。
このように、年次有給休暇は法律上異彩を放つ休暇制度なのだ。
略称は、「年休」とする。

話を戻すが、改正労基法の改正点は、「時間分割付与が可能になる」というものだ。
現行法では、年休は「日」を単位としており、原則として分割付与は認められない。
例外として、「半日付与」が認められているにすぎなかった。
(半日付与についても、労働者が希望しても事業所はこれに応諾する義務はない)
法改正によって、労使協定を前提として「時間単位」付与が可能となる。

時間単位の付与の利用例として、次のような事例が考えられる。
・朝病院によって出社するから1時間だけ年休取得したい
・昼間用事があるので、就業途中で2時間だけ抜けたい
・夜出発で旅行に行くので、終業時刻を2時間繰り上げたい
いわゆる「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」に適った考え方といえるだろう。

ところで、時間単位付与は労使協定の締結が前提となっている。
即ち、労使協定を締結しなければ、時間単位付与の義務も時間単位取得の権利も生じない。
労使協定を締結する場合は、対象労働者の範囲、取得可能日数(5日以内)等を協定しなければならない。

正直なところ、中小企業においては、法改正の時期に合わせて労使協定を締結する必要はないと考える。
おそらく大企業等労働組合がある事業所を中心に時間単位付与の導入が進むことが予想されるが、中小企業にとっては管理が煩雑になる等デメリットが大きい。
あくまでも各事業所の個別背景・状況等によるが、時間単位付与制度の導入によって労働者の士気が盛り上がり、業績に直結するなら非常に良いのだが、そうなる可能性は高いとはいえないだろう。

現在において、年休取得率が2~3割以下の事業所は、まずは通常の「日単位」の取得促進を図るべきだ。
年休が取得しやすいかどうかは、労働者にとっては勤務先事業所の善悪判断の大きな指標の一つなのだ。
一方、年休取得率が既に5割以上の事業所では、特段の対策は必要ないだろう。

ところで、年休は「労働者の権利」と言われるが、法律上はその通りだ。
しかし、権利の反対には義務があることを忘れてはならない。
労働者の権利の向こうには「労働者の義務」がある。
労働者の義務とは、使用者の指揮命令に従って労務に服する義務であり、この義務を果たさずに権利主張することは権利の濫用ともいえる。
使用者にも義務と権利がある。
労働者をその指揮命令下で労務に服させる権利がある一方、年休付与その他労働基準法等法律上の義務を負う。

労使間がうまくいっていれば、お互いに誠実に義務を履行し、相手方の権利を尊重するものだが、うまくいってなければ自らの義務を言い訳しながら無視したり、相手方の権利を認めないなどの負のスパイラルに陥りやすい。
やはり、円満な労使関係が何よりだ。

記(主な法定休暇制度一覧)

 ①公民権行使の時間(労働基準法7条)
 ②年次有給休暇(労働基準法39条)
 ③産前産後休業(労働基準法65条)
 ④育児時間(労働基準法67条)
 ⑤生理休暇(労働基準法68条)
 ⑥育児休業(育児介護休業法5条)
 ⑦介護休業(育児介護休業法11条)
 ⑧子の看護休暇(育児介護休業法16条の2
 ⑨介護休暇(育児介護休業法16条の5)※改正法による新設

※多くの事業所が制度化している「慶弔休暇」は法定休暇制度ではない(事業所の任意)。
※「創業記念日」「従業員の誕生日休暇」等、どのような休暇制度を設けようと事業所の自由(但し、一度制度化すると制度廃止は簡単にはいかない場合が多い)。
※休暇制度は、「休暇を付与すること」を制度化するものであり、「有給・無給」は別問題。通常、「無給」とすることが多いが、慶弔休暇は有給休暇とする例も非常に多い。