『自分がなにごとに対してもあくまでも正直であれば、必ず人を信じられるようになります。逆に、「智慧出(い)でて大偽(たいぎ)あり」という言葉があるように、あまり利口すぎて才覚が過ぎると、その反面に偽(いつわ)りが生じて、ついうそを言うようになりがちです。
そして、自分がうそをついていると他人の言うことも素直に聞けなくなって、人の言葉の裏を勘ぐり、だれも信じられなくなってしまうのです。
結局、うそをついている人は自分さえも信じられなくなるわけで、それが怖いのです。かりに人にだまされても、自分を信じていられる人は、怖いものはありません。
そう言うと、「こんな生き馬の目を抜くような世の中で、そんなことを言っていたら、みんなにだまされてしまう」と言う人がいるかもしれませんが、私の祖父は、「人をだましたら人さまに迷惑をかけるが、自分がだまされる分には、自分だけのことだからよいではないか。だから、決して人をだましてはならんぞ」と、いつも言って聞かせてくれたものです。
こちらがそういう心になってしまうと、人をだまそうというような人は、そう近づいてくるものではないのです。』
庭野日敬著『開祖随感』より