「脱アメリカ時代のプリンシプル(原田武夫著)」という本の中で原田さんは、現下の世界経済の動きを、欧米とアジアの文化的抗争という視点からとらえています。戦後、世界の経済力の中心であったアメリカは、1970年代から衰退を始めていました。当時、多くの人の目には、豊かな欧米と貧しいアジアという構図が映っていましたが、現実の経済の活力の点では、アメリカやヨーロッパに代わって日本がアジアの牽引車として台頭しつつあったのです。
しかし、このアジア台頭の予測に危機を感じたアメリカは、経済的に発展する日本とアジアを、政治的に支配する道を計画し始めました。それは、ひとことで言えば、日本とアジアの生産力を欧米の金融によって合法的にコントロールする仕組みです。そして、アジアがこの支配から脱け出ないように、政治的には、アジアどうしを反目させる仕組みが残されたのです。そのひとつが、今も、日本、中国、韓国の間に残る領土問題や、政治的に醸成された国民どうしの反感です。
著者の原田さんは、この欧米による金融支配を打破し、平和なアジアを築くために大事なことは、アジアの共通原理(プリンシプル)を持つことだと述べています。そのプリンシプルとは、日本、中国、韓国に共通する陰陽の思想だと言うのです。
現在の政治と経済の問題を、数百年単位の文化のサイクルの問題として考え、欧米の文化に対置するアジアの文化を陰陽の思想と考えたのは、歴史の本質を独創的にとらえた見方です。私は、日本及びアジアの文化の特徴を、陰陽の文化の更に先にある無の文化としてとらえています。それは、具体的には老子の無の思想、インド数学の0の発見、日本文化における無常観などとして考えることもできますが、もっと広く文化の全般にわたって流れているものです。
日本及びアジアの文化を無の文化と考えることによって、陰陽の思想も、また、政治、経済、科学、教育も、新しい視点で見ることができるようになるのです。(つづく)