
ときどき、「今週、テストなんや!」と、あせったようすの人がいます。テスト、テストと大変ですね。私も、学生のころは、一晩で覚えなければならないテキストを見て、げっそりしたものです(本当はそこまで放っておくのが悪くて、日頃の学習が重要なんやけど)。

最近、ちょっとしたことをきっかけに、人間の記憶について調べたこと「どうすれば記憶力が高まるか」を、簡単にまとめてみました。
(1)見たことのない30個の英単語を制限時間を決めて覚える。
(2)普段の生活のなかから、よくある状況を6つ選び、実験の条件とする。
◇通常のとき……(休日の朝、机の前にすわり「さあ。覚えるか」とスタート)
◇運動後……(朝、1時間のジョギングをしたあと)
◇就寝前……(1日の予定を終え、「おやすみなさい」と寝る前)
◇激しい疲労……(1日中テストでぐったり。前日は3時間しか寝ていない夜)
◇体調不良時……(風邪をひいて、夜、薬を飲んだあと)
◇ごほうびがもらえるとき……(覚えた個数に応じて、おこづかいが!)
(3)12時間後、測定の前に、測定時の心身の状態をメモしておく。
(4)単語をどれだけ覚えているか10分間で測定、覚えた単語の個数を記録する。

結果です。一番たくさん覚えることができたのは、どの条件だったと思いまか? それは……
★1位 ◇ごほうびがもらえるとき
★2位 ◇就寝前
★3位 ◇1時間の運動後

これらの結果から、記憶力が最も発揮されるには…
▼確実な見返りが期待できるとき▼

つまり、「これを覚えると、自分が有利になる」と確実に約束されている場合、人間は「やる気」を出します。その「やる気」は、脳のメカニズムに大きな役割を果たすそうです。

ふだん「あーあ。単語、覚えなくちゃなあ」と何となく勉強している場合、脳も単語の情報をそれほど必要だと判断していないのですが、単語を覚えることが自分の生死に関わることだとしたら、脳は生存のために単語を必要な情報とみなして、記憶スイッチが力強く入るのです。

たとえば、「これをすべて覚えないと、崖から落っこちる」などというときは、最強の記憶スイッチが入ってしまう(ありえない状況ですけど)。生死や利益、いろいろありますが、ごほうびの価値が大きいと判断するほど、脳にとっては有効な刺激となり、記憶力アップにつながる……

それならば、常にごほうびをもらえる約束を取り付けておけばよさそうですね。ところが、このような「ごほうびシステム」は残念ながら長続きしません。

なぜなら、脳は見返りにたよる記憶方法に慣れてしまうのです。一度そうなってしまったら、脳は新しく入った必要な情報も「へーへー、またですか~」と、必要性を軽く判断してしまうので、記憶が残りにくくなるということなのです。
▼覚えた直後に、十分な睡眠が得られたとき▼

十分な睡眠、つまり夢を見るほど深い眠りが記憶には有効なようです。じつは、記憶を定着させるには、「眠ること」というより「夢を見ること」の方が大事なんだとか。

脳の中には、記憶をつかさどる海馬という部分があるのですが、海馬は人間が夢を見ている間、起きていたときの記憶を引き出し、さらに記憶の中の情報を分別して、整理整頓する役割があります。夢を見るということは一度取り入れた情報を、必要なときに取り出しやすいように整理しているそうです。

しかし、逆に睡眠をとらなければ、海馬は記憶を整理することができなくなり、起きている間に働こうとするので意識がもうろうとし、きっちりと働くことができず、記憶は定着せず、すぐに忘れ去られてしまう……。

よく、試験前に一夜漬けをする人がいますが、記憶法としては、効率的とはいえないのです。

ちなみに、もっとも結果が悪かったのは、
▼体調が悪いとき▼
風邪をひいて、夜、薬を飲んだあとでした。覚え始める前に、風邪薬を飲んだのですが、多くの風邪薬には脳にやる気を引き出させる物質の働きを抑える成分が入っているそうです。そのような薬を飲むと、その後に睡眠をとっても、覚えたことを脳の中で整理整頓できにくくなります。

明日試験だという日は、薬は飲まないほうがいいということですね。
※参考※『記憶力を強くする』池谷裕二
澪標