ALGOの塾長日記~愚公移山~

-学習塾方丈記-

学習指導の由なしごとを
    徒然に綴ります。

暗唱の意義

2010年08月30日 | 中学受験 合格力随想
暗唱でなぜ頭がよくなるのかということについて、理論と実例を述べてみたいと思います。まず、理論の世界では二つのことが考えられます。

第一は、日本語を繰り返し音読すると脳波がθ波になるということです。θ波といってもぼーっとしている時のθ波ではなく、「覚醒θ波」と呼ばれる、かなり集中したときに発生する波長です。この波長は、人間のインスピレーションやヒラメキを促進する効果があるといわれています。

第二は、人間の思考力のほとんどは言語的な思考力といわれるものです。言語による思考力があると、物事を平面的、羅列的に見るのではなく、構造的にとらえることができるようになります。この構造的なとらえ方を、その場限りの単なる知識的な理解に終わらせず、手足の一部のように自由に使えるようになるところに物事を構造化する能力を促進する暗唱の意味があります。

これは数学の勉強を考えるとわかりやすいと思います。数学の得意な人は、反復練習によって数学的な考え方が自分の身体の一部のように自由に使えるようになっています。そこで、苦手な人からみると、数学の得意な人は理解しがたいひらめきがあるように見えるのです。次に、具体例を三つあげたいと思います。

第一は、湯川秀樹の例です。湯川秀樹は、「旅人」という自伝の中で、自分の子供のころの学習の様子を書いています。それによると、小学1年生のころ、祖父から論語の素読をさせられたそうです。それが後年、自分が本を読むときに大いにプラスになったと述懐しています。

第二は、貝原益軒です。益軒は、江戸時代に80代という高齢で「養生訓」や「和俗童子訓」という著書を著しました。それだけにこの書物は、人生経験の裏づけを持つ説得力のある内容となっています。益軒の思想は、当時の日本のかなり田舎の方にまで広まっていたそうです。たぶん、このことが、教育を重視する日本の国民性の土台の一つになったと思います。彼は、その著書の中で、四書五経などを毎日100字分100回暗唱することをすすめています。そして、これは子供の学習に限らず、大人にとっても大きな効果があると述べています。

第三は、私の経験です。短文暗唱を小学校低学年のころからやっていた子どもたちは、確かに頭がよくなりました。ただし、頭のよさと学校の成績は、普段は一致しない面もあります。学校の学習は、その場でその場で真面目にやっている子の方が成績がよくなるからです。ところが、受験勉強などを本格的に始めると、頭のよい子は、すぐに成績が上がっていきます。例えば普段のクラスの成績は40人中10番ぐらいだとします。ところが、受験の時期に入り本格的に勉強しだすと、半年か1年ぐらいで学年のトップクラスなってしまいます。

齋藤孝氏の『声に出して読みたい日本語』等の一連の教育理論もこの延長線上に存在していると思います。暗唱を始めた子どもたちは、これからだんだん大きな成果が出てくるはずです。


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